誰かの「今」をつくる本を知れば、自分の力にもなる。――『クロワッサン』2017年8/25 特大号「本のない、人生なんて。」



私の人生は、さまざまな本から得た影響でできている。悩みを解決してくれたり、新しい知識を教えてくれたり、気持ちに寄り添ってくれたり……たくさんの本が、私の今をつくっている。では、世の中の人たちはどうなのだろうか。いったいどんな本を読み、どんなふうに影響を受けてきているのだろうか?

『クロワッサン』2017年8/25 特大号「本のない、人生なんて。」は、さまざまな方の読書体験がまとめられている。子どもの頃に読んだ本から、大人になって大きな影響を受けた本まで、読書体験は人それぞれだ。

読書の原体験となった一冊のこと

幼少期に読んだ本が、いまだその人の心に残り続け、影響を与え続けることは決して珍しくない。

例えば、小説家の恩田陸さんは子どもの頃に『チョコレート工場の秘密』と出会った。「とにかく内容がメチャクチャ面白くて、母から『ごはんよ』って言われても読みふけっていた」という本作は、恩田さんが小説家を目指すきっかけにもなったそうだ。

あるいは作家の朝井リョウさんが「小、中学生のころにヒマさえあったら手に取って読んでいた」という作品が、さくらももこさんのエッセイシリーズ。読書に対して感じている堅苦しさを払拭させてくれるのだという。

ちゃんと感動しなきゃとか、著者の言いたいことをきちんと汲み取らなきゃとか、ちょっとプレッシャーになる気持ちが抜けないんですけど、さくらさんのエッセイにはそういう要素が一切ないんです。人生における重要なことなんて全く訴えかけてこない。文章を読むこと自体の楽しさを味わわせてくれた、読書体験の原点です。

『クロワッサン』2017年8/25 特大号「本のない、人生なんて。」朝井リョウさんインタビュー

実のところ、私もさくらももこさんのエッセイシリーズには大きな影響を受けている。何も考えずに読みながらゲラゲラ笑っていたことがほとんどではあるが、日常の何気ない出来事がこんなに面白くなるんだ、という感動があった。エッセイにハマるという体験はおそらく、さくらさんの作品が初めてだったように思う。

そのほか、自分の原体験としては童話の絵本シリーズが思い当たった。わが家は「本であれば誕生日などの特別な日でなくても、いつでも買ってもらえる」というルールがあったので、ひたすら童話の絵本シリーズをねだっていたことを思い出す。一番好きなのは、『ながぐつをはいたねこ』だった。おそらくあれが、本を楽しむようになった最初のきっかけだろう。

人生の教訓となるメッセージを受け取る

読書は単純に楽しいものでありながらも、ときにそこに書かれている言葉や展開から、新しい気付きを与えてくれる存在でもある。本誌では、本から人生の教訓になるようなメッセージを受け取った人も多かった。

ファッションデザイナーの島田順子さんは、『ソクラテス最後の十三日』を挙げていた。娘さんの受験をきっかけに哲学に関心を持ち、同書を手に取ったそうだが、その中に書かれている「なんじ自身を知れ」が20年経った今も胸に残っているという。

それまで哲学ってややこしくてわからないと思っていたけれど、ああ、こういうことなんだって初めて腑に落ちたんです。ファッションひとつとってみてもそう。自分を知らなければ、似合うものもわからないもの。人生においても自分自身を知れば、もう少し謙虚にも生きられるし、もっと強くもなれる。

『クロワッサン』2017年8/25 特大号「本のない、人生なんて。」 島田順子さんインタビュー

一方、女優の中嶋朋子さんはミヒャエル・エンデ作品の言葉たちを、いつも心に留めているそうだ。「本を読んで感銘を受けたフレーズや文は、必ずメモしておくんです」といい、その一つとして『物語の余白』の一節を記していた。ほかにも、『はてしない物語』『モモ』『エンデのメモ箱』など、さまざまな作品の言葉が考え方や物事の捉え方に影響を与えてくれているのだという。

私は子どものころ、ミヒャエル・エンデの作品を通らなかった。しかし、雑誌などでたびたび「影響を受けた」と紹介する人を多く見かけ、気になって大人になってから『モモ』を読んだのだった。すると、子ども向けの作品でありながらも、大人にとっても大切なことを教えてくれる物語になっていて、たくさんの人の心に残り続ける理由がよくわかった。

食わず嫌いなジャンルを克服させてくれた本

本誌で一番面白く読んだのが、作家の方々がこれまで苦手意識をもっていたジャンルの読書に挑戦する企画「食わず嫌いでいた分野の作品を、読んでみての感想は?」。角田光代さん、山口恵以子さん、山崎ナオコーラさん、柚木麻子さん、梯久美子さんと錚々たるメンバーが揃い、それぞれ読まず嫌いだったジャンルの小説に挑んでいる。

たとえば角田光代さんが読んだのは、カート・ヴォネガット・ジュニア『スローターハウス5』。「どうしても手が伸びなかった」というSFに挑戦しているが、同作品は抵抗なく読めたのだという。

『スローターハウス5』は最初ドレスデンを旧友と尋ねるところから始まるので、すんなり物語に入っていけました。書かれているのは人間の営みでしたから、主人公が宇宙へ行っても違和感はなかったし、何よりすごく面白かったんですよね

『クロワッサン』2017年8/25 特大号「本のない、人生なんて。」角田光代さんインタビュー

SFやファンタジーなど、現実世界とかけ離れている世界観を苦手とする人は少なくはない。私はすんなり入っていけるタイプなので理解が難しいが、確かに苦手とする人には現実とリンクしてくれるポイントがある方が良いのだろうなと感じた。

あるいは、山崎ナオコーラさんは戦国武将小説を苦手としていた。その理由の一つとして「戦争をして大勢殺してきた人でも昔の人なら肯定してもいいの?っていう疑問があった」という。しかし、天野純希『破天の剣』は「決して人殺しを肯定はしていない」作品で、読みやすかったのだそうだ。

この小説は主人公の家久の戦場での活躍をメインに描いているけれど、その姿は決して類型的なヒーローではないんですよね。自分の長所を発揮できるのは戦場だからがんばってしまう。自由奔放というよりむしろその生き方は悲劇的というか、切ない感じで書かれていて、本当に望んでいるのは家族との絆や、平穏な日々だったっていうのが、私の普段の考えにしっくりきたんです。

『クロワッサン』2017年8/25 特大号「本のない、人生なんて。」山崎ナオコーラさんインタビュー

実は私も、戦国武将小説、というより歴史小説が苦手だった。山崎さんと同じように戦争に対しての肯定も気になるし、時代背景をわからないまま読みたくないといった気持ちもあった。ただ、最近『竜馬がゆく』をたまたま読む機会があり、「歴史上の人物だって人間であることに変わりはなく、いろいろな思いを抱えているんだな」と感じて、前より抵抗感が薄れてきている。『破天の剣』もぜひ、読んでみたい。

本は私たちに、さまざまな経験や発見を与えてくれる。そしてそれらは、ある人にとっては忘れられない体験となり、ある人にとっては生きる糧になる。そうして誰かの心に残り続け、私たちの人生を豊かにし続けてくれるのである。もし今、心に残る一冊がなかったとしても、今後どこかで出会えるかもしれない。本探しの一手に、本誌を参考にしてみるのもおすすめである。



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