何年か前、旅行に出かけたときの話。
その日は昼過ぎに宿泊していたホテルを出て、お昼ご飯を食べてから観光や買い物をするつもりだった。しかし、14時頃という時間もあって、とにかくランチできる店が見つからない。
カフェを数軒見つけるも、ドリンクのみの提供で絶望した(いつもだったら喜んで入っている)。
さらに出向いたのは夏場。石畳に太陽が照り付け、汗が滝のように流れる。せめて軽食にありつきたい。そうして長らく歩き、辿り着いたのがとある純喫茶だった。
お腹を空かせて辿り着いた純喫茶
サンドウィッチくらいはあるかも、と淡い期待を寄せてドアをくぐってみると、かなりレトロな内装。何十年も営業してきたのだろうなと感じる。落ち着いた趣ある雰囲気で、いつもなら静かにコーヒーを注文するところだ。
しかし、今はそんな余裕もない。汗だくの顔をタオルで拭きながら、あまりの空腹に「何か食事はありますか」と聞いてしまった。
マスターらしき人は最初、少しクールな感じで「そこのメニューにありますよ」と教えてくれた。不審がられているのかもしれないと思ったが、とにかくメニューを見て目についた焼きうどんとコーラを注文。

客は私たち以外におらず、設置されたテレビから地方番組が流れている。カウンターの向こうにはこだわって集められたであろうコーヒーカップやティーカップが並んでいた。
せっかくこんないい雰囲気の店に来て、コーヒーも頼まず焼きうどんとコーラ。なんだか嫌な客だなあと自分で思ってしまう。食後に落ち着いたらコーヒーを頼もうと、心に決めた。
しばらくして焼きうどんとコーラが目の前に来ると、私はばくばくと頬張り、コーラを飲み干した。焼きうどんはちょっと濃いめの醤油味が嬉しい。夏のコーラは言わずもがな。

半分くらい食べきったところで、マスターがやってきて「味はどうですか?」と話しかけてくれた。「めちゃくちゃ美味しいです!」と答えると、笑いながら「そうか、ちょっと味付けが濃かったかなと心配してたんだよ」という。
不審がられていると思っていたので話しかけられたのが嬉しく、東京から観光で来たことや、お昼を食べ損ねたのでここで食べられて嬉しいことなどを話し、コーヒーを追加で注文した。
その後、マスターはずいぶん親切に接してくれて、帰り際にはおすすめスポットまで教えてくれたのだった。
空腹まかせの情けない店探しだったが、素敵な出会いになりとても嬉しかった。
マスターは元気にしているだろうか。焼きうどんはまだ、メニューにあるのだろうか?
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