初めて伺ったレストランで、なぜか懐かしい匂いがした。不思議に感じたが、しばらくして「ああ、これは実家と同じだ」と気づいた。両親が営むレストランで何度も嗅いだことのある、飲食店の独特な匂い。
それは、具体的に何の匂い、と断定できるものではない。食材や厨房器具、油、調味料など、あらゆるものの匂いが、複雑に絡み合ってできている。
私にとってはあまりに馴染みある匂いで、嗅いだ瞬間にノスタルジックな気持ちになった。
しかし、まわりの人は、特に何も感じていないようだった。そんな匂いが存在していることすら、知らないのかもしれない。同行していた夫に「飲食店の匂いがする」と言ったら、不思議そうな顔をしていた。

食事を終えた頃、レストランの店主らしき人に「お近くですか」と尋ねられる。はい、と答えると、うれしそうに「そうですか」と笑ってくれた。
聞けば彼はここの地元の人らしく、長い間このお店で料理を提供し続けているのだそうだ。私自身は、レストランを経営しているわけでも何でもない。ただ少なくとも、自分の家族と同じ生業の人のことを、勝手に近しく感じてしまう。
まさか「懐かしい匂いがします」などとは言えなかったが、何とも表現しがたい安心感に包まれながらひとときを楽しんだのであった。
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