『もじモジ探偵団』でフォントの不思議を辿る。よく見るあの文字の意外な歴史

言葉が好きである。が、言葉のデザインやフォントについて考えたことはほとんどない。好きなフォントはあれど、よくワードに使われているものくらいしか知らない。

しかし、どの文字のフォントも、いろんな議論が行われた中で生まれたものである。そのことを改めて教えてくれたのが、『もじモジ探偵団』であった。

フォントに歴史あり。ナンバープレートの秘密を知る

本書は街でよく見かけるさまざまな文字の、フォントやデザインをトーク形式で紹介してくれる一冊である。表紙の可愛らしい探偵と助手が調査し、専門家にインタビューをして文字の謎を解き明かしてくれる。

どれどれ、と捲って一発目。ナンバープレートの話から始まった。ナンバープレート! 頻繁に見ているのに、フォントについて考えたことなど一度もなかった。

どれも同じものだと決めつけていたが、決められているのは「大きさとレイアウトだけで、法的に書体について他の決まりはない」という。

参考で載っているナンバープレートの写真は、よく見てみると確かに書体が違う。山形と山梨、山口の「山」が微妙に違っていて驚く。ちなみに数字の書体は以前はバラバラだったが、現在は統一されているらしい。これまでの変遷や実際の昔のナンバープレートも載っていた。

そのほか、個人的に興味深かったのは視力検査でよく見る「C」のマーク。なんとアルファベットでなく「ランドルト環」といい、しかも130年くらい前から使われているそう。意外と歴史ある書体なのである……

日本では平仮名やカタカナ、図形なども見受けられるように思うが、これらはこのランドルト環と可視度が一致するものを基準に作られているとのこと。素人としては「見える」と判別できればいいのかなあと思っていたが、細かくいろんな基準を持って作られているんだな……

このほか、郵便ポストや紙幣、駅弁の文字、お菓子のロゴに至るまでさまざまなフォントの歴史がみっちり載っている。一冊読み終えると、ふだんさらっと見逃している物事の解像度がぐんと上がり、日常の景色がより楽しくなった。

心ときめく文字のデザインに触れて

文字を見ること自体は好きなので、単純にきゅん、とときめくデザインにもたくさん出会えた。最も胸が高鳴ったのは、松屋銀座のオリジナルフォント。

まるまるした文字がファンタジックで可愛すぎる。特に数字の「8」。雪だるまのような出で立ちがキュート……

本書によれば松屋銀座では、入口の看板やフロアガイド、エレベーターのボタンに至るまで、「松屋フォント」が使われているそうだ。この理由として、百貨店は買い物をしにくる場所だからこそ、ある種現実離れした空間を演出したいからとのこと。

お客様がふと冷静になって現実に引き戻されてしまいがちな空間はどこかというと、フィッティングルームやトイレ、エレベーターといった、一人になる空間なのです。そういう場所こそ夢のある空間にしたいということから、エレベーターにも松屋フォントを使用することになりました。

『もじモジ探偵団』p.155-156

当たり前だけど、どんなフォントもいろんな人が話し合って、目的や視認性を含むさまざまな面から練りに練って作っている。こうして書いているブログや、読んでいる本や、使っているPCのボタンのフォントだってそうなのである。

そう思うと、見慣れた日常の景色にも、まだまだ知らないことがたくさんあるのだなと感じる。

本書を読むことでまた一つ、自分の視点が広がったようで嬉しい。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。