いがらしろみ『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』#1 パティシエを目指して



『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』は、お菓子研究家・いがらしろみさんの仕事の道のりを書いた一冊。子どもの頃から料理好きだったいがらしさんが、お菓子に興味を持つようになってから、お菓子研究家となり、ジャムとお菓子の店『Romi-Unie confiture』を始めるところまで、丁寧にいがらしさんのキャリアと心境が綴られている。

なぜいがらしさんがお菓子研究家になったのか、ジャムを売る仕事を始めたのか、そしていったいそれらはどんな仕事なのかがよくわかり、お菓子好きの人も、お菓子づくりを仕事にしたいと考えている人にとっても、とても参考になるのではないだろうか。

料理好きが転じて、お菓子づくりの道へ

いがらしさんは、子どもの頃から生粋の料理好きだったそうだ。子どもの頃から料理をしていて、はじめのうちは目玉焼きや玉子焼き、そのうちお好み焼きやクレープなどをつくり、ときには友達を呼んで振る舞っていた。料理を「遊びのひとつのようにとらえていたのかもしれません」という。

お菓子に目覚めたのは、料理好きが転じてのこと。料理とは違い、クリームの泡立ても一苦労。全然思い通りにつくることができなかった。しかしその大変な過程こそが、興味を引いた。すっかりお菓子づくりにハマったいがらしさんは、高校生になる頃、お菓子教室に通い始める。

さらに短大生になってからは、フランス菓子の名店『ルコント』でアルバイトを開始。1年ほど働いた頃には「この仕事は楽しいかも」と思うようになったとのこと。

ルコントのアルバイトは楽しいことばかり。お菓子屋さんは大変そうだけれど、やりがいがあるかもしれない。それならば、この道に進めばいいのではないか、という思いを持ったのです。パティシエの方と打ち解けて話すうちに、自分もこの人たちと同じ道に進みたいという気持ちが固まってきました。

『お菓子の仕事、ジャム屋の日々』いがらしろみ

その後、短大を卒業と同時に『ルコント』に就職。パティシエとしてのキャリアをスタートさせたのである。

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パティシエは大変。キャリアを見つめ直す

名門『ルコント』でパティシエ見習いを始めたいがらしさん。順調なキャリアに見え、実際「先輩たちの技を間近で見るのは非常に勉強になった」と綴っている。

しかし、パティシエの仕事はあまりに激務。早朝から夜まで働くほか、大量の小麦粉やバターを運ぶ力仕事も日常茶飯事だった。そんな日々を過ごすうちに、疲れを感じるようになったそうだ。

私は、仕事は一生懸命したいけれど、仕事の生でごく当たり前の人間的な生活ができない人生は嫌だ、という思いがありました。このままパティシエ見習いを続けるのは私の目指しているところと違うのではないか、という疑問にさいなまれはじめました。

『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』いがらしろみ

「自分にふさわしい仕事をもう一度考えてみよう」と、『ルコント』を退職。今度はお菓子づくりの聖地、フランスに赴くことにした。

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いざフランスへ。料理学校で研鑽を積む

フランスでは語学学校に通いながら、お菓子を食べ歩き、さらに料理学校『ル・コルドン・ブルー』への留学を決意。改めてお菓子づくりをしっかりと学ぶことにしたそう。

あれほど意欲に燃えていたのは、後にも先にもそのときだけかもしれません。授業では、予習復習をしていればきちんとしたものをつくることができました。毎回の授業で、なにかしらの発見があり、私が勉強したかったことと授業内容がドンピシャだった。たぶん、外国人がフランス菓子を習得するのに、とても効率よくできているプログラムだったのでしょうね。

『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』いがらしろみ

学校では、日本とのお菓子づくりの違いや、さまざまなシェフの技を勉強。きちんと専門学校で教えてもらうことで、お菓子づくりを体系的に学ぶことができたという。

さらに、『コルドン・ブルー』では、無給だが実際にパティシエの現場を経験できる「スタージュ」という制度があった。そこでいがらしさんは、スタージュ制度を利用し、昔ならではの地方菓子をつくる『ラ・ヴィエイユ・フランス』で働いてみることに。

ここではみんなでお昼ご飯を食べたり、仕事でもちゃんと私を生かしてくれて、毎日気持ちが温かくなるような幸せな経験ができたのです。仕事の現場を学ぶこともできましたが、それ以上に「お菓子屋さんの在り方」の勉強になりました。私が経験したかったのは、人との繋がりや、お店をやっていくうえでの気持ちの在り方だったんだ、ということに気づくことができました。

『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』いがらしろみ

その後いがらしさんは上級クラスに進み、無心でお菓子について学んでいく。「こんなに素晴らしい技術を教えてもらう機会はもう一生ないかもしれない」と必死に勉強した結果、なんと最後は何と首席で卒業したそうだ。

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お菓子づくり以外の経験も、お菓子づくりに役立つ

本書を読んで感じたのが、お菓子づくりに関係のないような経験も、巡り巡ってお菓子づくりに活かされているということ。例えば、成績優秀ないがらしさんでも、留学時は「勉強ばかりではいけない」という。

留学というと、その目的だけに時間を費やしがちです。お菓子ならお菓子のことだけを学ぶ、という風に。もちろん、それはもっとも時間を費やすべきことなのですが、そのために自分らしい暮らしができなかったり、その環境を堪能できないのはもったいない。

『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』いがらしろみ

パリで絵を学んだり、違う国の友人をつくったり、美術館を見て回ったり……お菓子づくりとは一見関係ないように見えても「お菓子づくりのうえできっと無駄にはならないだろう」と思っていたそうだ。

あるいはフランスから帰国後、当面のお金を稼ぐため、日本の『コルドン・ブルー』で働き始めたとき。事務仕事をしたり、講師の外国人シェフのアシスタントとして通訳をしたりと一見お菓子づくりから離れているように見えるが、これもまた、勉強になったという。

生徒さんがわからなそうな顔をしていると、解説を加えながら話しました。それは自分にとってとても勉強になりました。語学力が足りない分、自分には知識と経験がある。それをきちんと生かすことができたので、仕事が面白いと思えたし、自分が学んできたことが無駄にならないと思えたのです。

『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』いがらしろみ

子どもの頃からの夢を叶えてパティシエになったものの、改めてキャリアを見つめ直し、さらに勉強もし直したいがらしさん。さらに、お菓子づくり以外のことも経験し、どんどん成長していく。自分がどうしたいかを常に考え、自分らしく働く方法を模索している姿には、ずいぶんと勇気づけられる。



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たけの
フリーの編集者・ライター。食関連の書籍・雑誌・Webサイトで活動中。祖父母は定食屋、両親はレストランを経営。飲食店一家に生まれ、食の虜に。美味しい飲食店や料理、食文化・歴史・ニュースなどを発信しています。