「ごはん」を改めて考える――『RiCE』no.1 2016年秋号「ごはんの味」



「ごはん」という言葉には、あたたかくてやわらかくて、やさしい響きがある。

「lifestyle for foodies」と銘打って始まった、食のカルチャー誌「RiCE」。そのエディターズノートでは、創刊にあたってタイトルや誌面への想いがつづられており、特集「ごはん」についても書かれている。

ライスとは、言うまでもなく日本人の主食であるお米のごはん。そして「ごはん」とは、日本人にとって食べもの全般をあらわす広い言葉でもあります。いわば、生きる糧であり命の源。Iだけ小文字にしたのは、そんなアイデンティティーのようなものを象徴したかったからです。

「RiCE 」No.01 特集 ごはんの味

ごはん、という言葉には多様性がある。しかし当たり前にあるものだからこそ、深く考える人は少ないのかもしれない。本誌を読みつつ、改めて「ごはん」の魅力に触れていくことにしよう。

意外と知らない、日本の米事情

前述の通り「ごはん」は食事、あるいは米を指す。まずはお米について考えてみよう。

日本は米の生産量・消費量が少ない?

和食には米が欠かせない。となると、和食文化の日本はさぞかし米の消費量が多いだろうと考える。しかし、「生産量と消費量で見る世界のコメ事情」によると、米の生産量ランキングの1位は中国。そしてインド、インドネシアと続き、日本はなんと10位だ。同じく消費量ランキングも1位は中国で、日本は9位。何となく上位だと思っていたのに、意外である。

日本が上位に来ない理由としては、おそらく貿易量が関係しているのではないかと思われる。本誌によれば、米は貿易量がほとんどなく、生産国と消費国がほぼ同じ。つまり、地産地消を繰り返している食べ物だ。日本人が食べる分の量を生産して日本人が食べているとなれば、大国中国やインドよりは必然的に少なくなるのではないか、と考えられる。

あるいは、これは個人的な意見になるが、洋食の台頭も大きな要因の一つだろう。朝食やランチにパンを食べる人は非常に多く、夜に米を食べない人も決して珍しくはない。麺類を食べる人もいるだろうし、米の消費量が少なくてもおかしくはないはずだ。

粘り気こそ、日本米の特徴

日本で一般的な米と言えば「ジャポニカ米」。インドやタイで食べられている米と比べると特徴的なのが、短粒で、粘り気があること。これがまさに、箸でつまんで持ち上げる、あるいはおにぎりや寿司を握るときに向いている。米同士がくっつき、まとまりを感じるからである。少なくとも、この米の特徴がそれなりに和食文化の形成に影響していることは間違いない。

そのほかにも、米についてのさまざまな情報がわかりやすく掲載されていてとても興味深い。いくら毎日食べていても、意外と知らないことが多くて驚いた。

写真AC

定食、丼、カレー……「ごはん」の多様な在り方

続いて、食事としての「ごはん」を考えてみよう。お茶碗に盛りつけておかずとともに食べるだけでなく、カレーや丼などのように一皿で完結する場合もある。

森枝卓士さんのコラム「米の話。あるいは日本の定食はスゴい…。」では、定食の魅力について解説されていた。森枝さんは世界の食を食べ歩いているというが、日本の定食ほどコスパの良いものはないという。確かに、五百円~千円程度でしっかりとした食事が食べられる日本は珍しいのかもしれない。

欧米など、わたしたちになじみのある食の体系を持つ国々を旅した経験がおありなら、すぐにおわかりだと思う。定食の感覚で気軽な食といえば、ハンバーガーにポテト。あるいはサンドイッチの類。まあ国にもよるけれども、ちゃんとメインがあって、前菜なりサラダなりが添えられてというような食事を思うと、定食の値段ではすまない。ちゃんとした食事になってしまう。それなりの出費を覚悟させられるレストランの。
ところが日本なら千円札の一枚でもちゃんとした食事ができてしまうではないか。

『RiCE』no.1 2016年秋号 「ごはんの味」

また、定食が出来上がった背景について、日本でかつて行われていた米と大豆の輪作があるという話も興味深かった。米をつくる際には窒素、リン、カリウムが必要となるが、戦後はまだ化学合成肥料がなく、これらをマメ科の植物でまかなっていたそうだ。そのマメ科の植物として使われていたのが、大豆だった。

大豆は味噌、醤油のような調味料にもなるし、豆腐やそこから派生する湯葉、油揚げ、厚揚げ、おから等々になる。納豆にもなる、モヤシにもなる。
というわけで、米のご飯に豆腐や油揚げの味噌汁、納豆等々という日本のご飯のスタイルができあがる。パンと乳製品、米と魚醤のように、糖質とたんぱく質をバランス良く摂取する食のスタイルができあがる。

『RiCE』no.1 2016年秋号 「ごはんの味」
chokyoによるPixabayからの画像

今もなお、愛され続ける米屋のこと

米を買う手段は何かと問われたら、多くの人がネットやスーパーを挙げると思う。米を米屋で買う人は、やはり年々減っていっているのだろう。私ももちろん、人のことは言えない。

しかし本誌によれば、昨今“サードウェーブ”的な米屋が増えているのだという。柿崎至恩さん「三代目の米屋たち」では、今もなお営業を続ける素晴らしい米屋さんのことを知ることが出来た。

米屋だからできる、極上のおにぎりを安価で提供

代沢『阿川米穀店』は三代目の阿川弘之さんが営む、古くからの米屋。美味しい米屋だからこそできる、おにぎりの販売を行っている。一個150円と手頃であるにもかかわらず、オリジナルのブレンド米が絶品なのだそうだ。

「うちは食管法時代、自主流通米を扱わなかったんです。祖父も父も、『正規』に仕入れた米をブレンド技術でおいしくすることにプライドを感じていました。今の時代だからこそ、米屋のブレンド米のおいしさを多くの人に知ってもらいたいですね」と阿川さん。それには食べてもらうのが一番とおにぎりを売り始めたのだった。

『RiCE』no.1「ごはんの味」柿崎至恩「三代目の米屋たち」

おにぎりは朝7時から販売されており、出勤前の方やお子さんにお弁当を持たせたい親御さんなど、さまざまな人が訪れるそうだ。米屋が町に当たり前にある日々、なんだかうらやましく感じる。

品種と産地にこだわり、嗜好品として米を楽しんでもらう

大塚米店の大塚孝康さんは「40年以上前から米屋は品種と産地にこだわらないと生きて残れないと考えている」という。コラムによれば、シングルオリジンの米が30~40種類ほど並んでいるそうだ。

商品説明を見ると『コシヒカリのプロトプラスト栽培』や『コシヒカリの突然変異(MNU処理)』など、かなりマニアック。もちろんお客さんがすべてを理解しているわけではないが、「うちみたいな品揃えだと、いろいろな米を食べ比べて楽しみたいお客さんが多いからね」と大塚さん。つまり、主食というよりも嗜好品として米を楽しむ消費者には、こういった博物館的な表記が訴求力になっているのだろう。

『RiCE』no.1「ごはんの味」 柿崎至恩「三代目の米屋たち」

私も米には決して詳しくないが、確かにこういう米屋さんに行ってみたいと思う。生活のためだけでなく、自分が楽しむために食に気を遣うことはとても楽しいからだ。

旨い米のある店に旨い酒あり

駒場東大前「小柳商店」では、米だけでなく日本酒を販売しているという。

冷蔵庫を見ると『李白』『桂月』『七冠馬』と、なかなか渋いラインナップ。よほどお好きなんですねぇと水を向けると「うちが取り扱っている米農家さんのつながりで紹介してもらった蔵元さんなんです」とのこと。なるほど、米農家が米を納入している蔵元ということか。しかも問屋や酒販店を通さず、蔵元から直送してもらっている。この規模でそれができるのは、米のプロとして蔵元の信頼を得ているからだろう。

『RiCE』no.1「ごはんの味」 柿崎至恩「三代目の米屋たち」

米と日本酒は切っても切れない関係。だからこそ米屋で日本酒を売るのは理にかなっているのかもしれないと、妙に納得したのだった。

米、そしてごはんは、私たち日本人にとってアイデンティティともいえる存在。しかしあまりに身近過ぎて、きちんと知ろうとしていなかった気がする。今回『RiCE』を読んだことで、ごはんの魅力を再発見するいいきっかけになったのだった。

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