日本語は「食」にまつわる表現が本当に豊か。『食べる日本語』を知る

日本語って豊かだ。ちょっとした状態の違いでもそれぞれにぴったりの表現があって、さまざまな言葉で説明することができる。

その中でも特に、「食」を表現する言葉は格別だと個人的に思う。食べる前の見た目や香り、食感、舌触り、味わい、喉越しに至るまで、本当に驚くほどの表現がある。今回、早川文代さん著『食べる日本語』を読んでさらに食の表現への関心が深まった。

ぷるぷる、ぽろぽろ、どろどろ…豊富なオノマトペ

『食べる日本語』は、食にまつわる日本語の表現とその由来や活用方法をたっぷりまとめた一冊。味わいや香り、調理法などさまざまなシーンで使われる用語がずらっとならんでいるが、本書を読んでより実感したのが、日本語のオノマトペは本当に多いということ。

第一章ではそのオノマトペがまとめられているが、その数30個以上。これは厳選されているだけでもっともっとあるだろうなと推測できる。

これだけ豊富であるということはつまり、細かな違いを言葉で言い分けられるということ。例えば、そぼろなどに使われる「ぽろぽろ」はほかにも「ぱらぱら」とか「ほろほろ」「ぼろぼろ」など近しい表現がある。

それでもそぼろには「ぽろぽろ」がしっくりくるのは、少しずつ言い分けているからである。

ぽろぽろは、水分や粘りが少なくて、粒状にばらける様子を表現する言葉です。調理の専門家に調査したところ、ぽろぽろは、食感と見た目を両方表す言葉だということがわかりました。類似の表現である「ぱらぱら」は散らばる感じを表しますが、「ぽろぽろ」はこぼれる感じに主眼があります。また、ぱらぱらのほうが粒が小さく、乾燥しています。

早川文代『食べる日本語』ぽろぽろ

ほかにも、「とろとろ」は「ほどよい濃さのなめらかな流動体」を指し、「『さらさら』よりも粘り気やとろみがあり、『どろどろ』よりもなめらかなもの」。

また、水分を含んだやわらかい野菜を指す「しんなり」と「しなしな」は似た言葉だけれど、「しんなり」は「野菜などに硬さがなく、折れずに曲がる様子」、「しなしな」は「ただ放置してしまった野菜」など、元気のない様子を指すのだという。

同じ食べるにしても、「ぱくぱく」と「むしゃむしゃ」では違うし、辛さを表すときに「ツーン」とするのはワサビ、「ピリピリ」するのは唐辛子。微妙な言葉の使い分けを、当たり前のように私たちは使っている。

味わいの表現は感情や状態の表現に通ずる

食に関する表現が豊富なためか、私たちは味わいに関する表現を、いつのまにか感情を表すときにも使っている。

しけた

せんべいやポテトチップスが水分を吸ってちょっとしなっている様子などをしけた、しけったと表現する。これはその様子になぞらえてなのか、元気のない様子を同様の言葉で表現することがある。ドラマなどでも「しけたツラしやがって」なんてセリフを聞くことがある。

うま味

出汁などの味わいを表現する「うま味」。世界的にも「UMAMI」として知られるようになり、日本食の要にもなっている。これはちょっとおもしろい、興味深いなどのときに「うまみがある」とか「うまい話」などというように活用されている。

まだまだ尽きない食の表現、新たに知った表現たち

自分が知っている言葉だけでも、食に関する表現ってたくさんあるなあと思っていたのだけれど、本書で新たに発見した言葉も多かった。

妙味

すぐれた味、趣を指す言葉。古くは平安時代の書物に記載があるらしい……

食べ物だけでなく、一般的なことがらにも使われ、夏目漱石の『吾輩は猫である』には「蝉取りの妙味」と使われています。最近では、東京農業大学の小泉武夫教授が、焼きナスの形容に「特有の上品な甘さと奥行きの深い妙味」と使っています。

早川文代『食べる日本語』妙味

野趣

こちらも古くからある言葉だそうで、杜甫の漢詩にも使われているとのこと。

「野」の字は田と土を字の左側にもち、野原や田舎を表します。一方の「趣」は、もとは疾走を意味していました。これが転じて、おもむくこと、さらに、心の向かうところという意味から「おもむき」も表すようになりました。すなわち、「野趣」は野原や田舎などの自然の趣があることです。

早川文代『食べる日本語』野趣

本書ではいつその言葉ができたのか、どれくらいの年齢層が多く使っているのかなども紹介されていて、表現の歴史も面白かった。

今後も多分、食のジャンルは広がっていくだろうし、それに伴い、消えていく表現、新たに出来上がる表現もあるだろう。これからも食の表現を楽しんでいきたい。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。