本に、人に、“埋もれて”生きる日々の記録が愛おしい。橋本亮二著『うもれる日々』

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以前勤めていた編プロのデスクは、いつもゲラまみれだった。しまうところがなくてデスクの上だけでなく、デスクの下、ロッカー、さまざまなところに積んでいた。

今はWebでのやり取りが増え、あの頃のように大量の紙に埋もれることはなくなったけれど、あの風景は何となく好きだった。

しかし、私のデスクの上など高が知れている。出版営業・橋本亮二さん『うもれる日々』の表紙には、芸術的なまでにゲラやメモ、本、書類などで埋もれているデスクらしき写真。

しかも、私のように積み上げてしまったというよりは、大事なもの、好きなもので溢れ返っているという感じがする。雑多なのに、なぜか温かいのだ。

本を読み、人と会う。出版営業の日々を覗く

『うもれる日々』は朝日出版社で出版営業を行う橋本亮二さんが、本に、人に、ときにお酒に埋もれていく日々を綴った日記である。

読んでみると、まさに本や人に“埋もれる日々”。

本書には何冊も何冊も、本が登場する。本屋に行き、本関連の展示に行き、気になる本をどんどん手に取る。書店の人々や本づくりに携わる人たちと交流し、そのコミュニケーションを通じて新たな本と出合う。

もちろん日記だから、ときに趣味に興じたり、食事したりといった、何気ない日常も綴られている。それでもいつの間にか、本や本に関わる人たちの話に戻っている。

「店頭からひとを介して一冊の本に出合えることがなにより豊かなことだと思う」と語る橋本さんの日々は、実際、とても豊かなのだろう。

飲みながら、底のない世界に潜っていく

次々と本に出合う中で、もちろん本も読んでいく。日記の中では橋本さんが本を読む過程も描かれている。お酒を飲みながら読むシーンが、特に面白かった。

本を読むのがすきだ。朝も昼も夜もページをめくっている。小説や人文書をよく手にするが、安酒を三杯以上飲むと物語の流れや描写がぼやけてくる。次にしおりがはさまったところから開くとなにも話がわからない。結局、数十ページ戻って読みなおすことになる。昨夜の時間はなんだったのか。

それでも酒を飲みながら本を読むのがすきだ。意味のないことがすきだからだ。

『うもれる日々』橋本亮二

お酒にも、“埋もれて”いく。お酒を飲みながら本を読まない人にはわからないかもしれないが、私もこれにはとても共感した。じんわりと世界に“浸って”いく感じは、意味がなくても何物にも代え難い。

そして、この本を通して「本は読む、というより浸るとか潜るという表現が正しいのかもしれないな」と思うようになった。

私たちは本を通じて想いを共有できる

『うもれる日々』の中で、一番いいなあと思った文章がある。

「本を読む行為はある面では閉ざされたものではあるけれど、共有することはできる。それを通じて出会った人は、ゆったりした歩幅であっても長い距離をともにできる」

当たり前のことかもしれないが、ほんとうのことが言えた。実際に自分が読んだ本と、その場をともにしたひととの時間を経て、感覚が思考となり言葉になった。

『うもれる日々』橋本亮二 ページを開くこと

私たちは本を読むとき、自分の世界に浸り、潜り、誰とも会話をせずに本との閉ざされた空間に入り込む。しかし、そこで生まれた感情は誰かと共有することができる。そして、それもまた、本を読むことの魅力なのだ。

「すきだという気持ちを持ちながら、本を届けていきたい」という橋本さん。そのやさしく強い想いを、本書からめいっぱい感じることができた。そして私も、これまでたくさん本を読んできたことで得られた気持ちや、共有できた嬉しさを思い出した。

これからも橋本さんの『うもれる日々』は続いていくのだろう。またいつか、その日々を、文章で覗いてみたい。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。