コッペパンの開き方、そして個性豊かな名店たちのこと。『コッペパンの本』

コッペパン。名前を聞くだけでノスタルジーを感じる。子どもの頃から何百回と食べてきたであろうそれは、今もなお、個人的に好きなパンランキングの上位に君臨している。

だから私が『コッペパンの本』に一目惚れし、即座にレジに向かったことには何の不思議もありません。愛してやまないコッペパンの名店を知り、まだ見ぬ新しいコッペパンを知りたかったから。

名店の個性豊かなコッペパンを知る

本書では、全国に散らばるコッペパンの名店を取材し、各店の開業の経緯やメニュー開発の想い、商品の特徴などを細かに紹介している。知っている店も知らない店もあり、実に個性豊かな名店を知ることができた。

例えば、伺ったことのある店で言えば、亀有の『吉田パン』がある。何で見つけたのかはもう覚えていないが、とにかく初めて「コッペパンの専門店」という存在を知ったのが同店だった。ふっくらとしたまあるいコッペパンに、実にさまざまな具材が詰まっている。あんこやカスタードの甘い系からポテトサラダややきそばなどのおかず系までバラエティ豊富。あまりに美味しそうだったので家に帰りつく前に、駅のホームで齧りついてしまった思い出。

本書によれば『吉田パン』はどうやら岩手・盛岡の『福田パン』から派生しているらしい。こちらは伺ったことがないが、「コッペパンのイメージをそのまま具現化したような存在」と記載されており、とっても気になる……特に定番メニューの「あんバター」の記述は魅力的であった。

まず、全員、開口一番「あんバター“と”」。とりあえずビールならぬ、とりあえずあんバター。その中のひとりは「あんバターと、キーマカレーと……あとなにか甘い系、クッキークリームと……私、あんバターって言いましたっけ?」
あんバターを注文することはあまりにも当たり前すぎて、もうその名を口にしたかしないかを忘れてしまう。けれど決して買い逃したくない、ということか。

『コッペパンの本』p.11

そんなに??? 定番を通り越して、もはや当たり前のような存在なのだろう。うーん、食べてみたい。というか、気軽に買いに行ける場所があったらいいのにと思ってしまう。ただ、県内での商売にプライドを持って営業されているところもまた魅力的で、だからこそ地元民に愛されるのだろうと感じた。

このほか、地方のベーカリーから「ジャム&マーガリン」や「つぶあん&マーガリン」が有名な「山崎製パン」なども掲載されており、コッペパンの店舗を包括的に知れる内容となっていた。本書を片手にコッペパン行脚してみるのも、面白そうである。

背割り、腹割り、コッペパンの開き方が面白い

コッペパンの各店の違いは、生地や具材……だけではなかった。本書でハッと気づいたのは、「開き方の違い」である。

例えば先述の『吉田パン』は横から切れ目を入れる「腹割り」で、本書では「吉田パン発祥ではないか」と推測されている。うわあ、確かに。ほかの店舗では見たことがない。あのぱかっと開いて、お腹の中をすべて見せてくれる写真は、ワクワクするものがある(HP参照)。

一方、『Le petit mec OMAKE』では、表面に垂直に切れ目を入れる「背割り」らしい。「コッペパンは、写真撮るときには上から撮るもんやと思ってるんで」と、見え方を重視しているそうだ。おかず系のコッペパンは、こちらのイメージが強い気がする。焼きそばパンやソーセージパンなどはたいてい背割りの印象だ。

「背割り」と「腹割り」が多かったものの、中には斜めに切れ込みを入れている店もあり、開き方一つでも個性が出るのだなと驚いた。コッペパンは形が決まっているだけで、それ以外のルールはないというから、店によって作り方が違うのは当たり前なのだ。あまりに馴染みがありすぎて、今までそんなことにも気づかなかった。ただ、それくらい馴染んでいる、というのが、コッペパンの良いところのような気もする。

名店だけでなく、コッペパンそのものを系統立てて知ることができて、とっても面白かった。行ったことのない店も多かったので、ぜひ今後伺ってみたい。

もっとパンの記事を読む

⇒パンの記事一覧はこちら

もっと食のトレンド記事を読む

⇒食のトレンド記事一覧はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT US
襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。