沖縄に行った際、牧志市場の周辺をうろついていると、突然本屋が目に入った。え!? こんなところに本屋!? と驚き、お邪魔した。『市場の古本屋 ウララ』、町の古本屋さんであった。
ラインナップが面白く、沖縄に関連した本が多かった。興味深いものがたくさんあったが、そのときは『沖縄島建築 建物と暮らしの記録と記憶』、そして同店の日々が綴られた『本屋になりたい』を購入した。
帰宅してまず『本屋になりたい』を読み始めると、店主の宇田さんが『ウララ』を開くに至った経緯はもちろん、沖縄で古本屋を営むやさしい日々のことや、古本屋の魅力についてもたっぷりと語られていた。
『市場の古本屋 ウララ』の豊かな日常
本書から伝わる『ウララ』の日々は面白い。同店には初めから本目当てで来る人が少なく、商店街に買い物に来た人や、観光客などさまざまな人が訪れるそうだ。さすがは市場の前、商店街の中にある店。ふつうの古本屋ではちょっと考えられない客層。
路上に椅子を出して座っているので、通りかかった人が次々に声をかけてきます。
『本屋になりたい』宇田智子
「国際通りはどっちですか?」
「本の買取もする?」
目の前にある第一牧志公設市場は、地元の人も観光客も買いものに来る場所です。
私もまた、偶然通りかかった客の一人。『ウララ』は商店街に馴染みに馴染んでいて、ほかの居酒屋や食品売り場と同じように、“町の店”という感じがしてそれがいいなと思った。
いろんな人がくる場所だから、ラインナップも一層面白くなるのかもしれない。
本書によれば、『ウララ』ではお客さんが本を持ってきてくれることもあれば、県内のお客さんの家に出張して買い取りに行くこともあるほか、「本屋の棚はお客さんがつくる」「本屋の棚はお客さんのためにある」と言い、お客さんの声に合わせて本を取り寄せたり、並べ方を変えたりしているそうだ。
また、古本屋ながら新刊を置いているのも珍しいところ。惚れ込める本に出合えたら、自分から「店で扱わせてもらいたい」と連絡するのだという。それだけラインナップにこだわっているということなのだろう。
沖縄の本屋としての役割
『ウララ』には沖縄の本が多く並んでいた。沖縄の歴史や文化などを綴った本からガイドブック、レシポ本などさまざま。
私も確かにそうだったが、ほかのお客さんも、沖縄関連の本を求める人が多いそうだ。宇田さんは「珍しい沖縄の本が入ってきたときは、気合を入れて登録します」という。
古い雑誌や展覧会の図録、個人の手記には、ほかの古本屋が出品していないもの、さらには沖縄の図書館も所蔵していないものが少なくありません。もしかしてこの本を探している人がいるかもしれないという使命感に駆られて、たとえ値づけの安い本であっても出品します。
『本屋になりたい』宇田智子
個人的に、沖縄はほかの都道府県に比べて独自の文化が多いように感じている。ゆえに書籍は貴重な資料。歴史や文化はもちろん、何気ない生活習慣を知る上でも重要な手立てとなっているはず。
私が購入した『沖縄島建築 建物と暮らしの記録と記憶』も、沖縄の建物の歴史や時代背景が細かく解説されていて興味深かった。
助け合いの古本屋精神
沖縄の本屋の日々、という場所柄の話も面白かったが、古本屋自体の仕組みも丁寧に綴られていて、そちらも印象的であった。
古本屋と言えば、客が売りたい本を持ってきて、それを査定して売る、というのが一般的だと思っていた。ところが本書によれば、古本屋の店主は自ら本を仕入れに行き、きちんと「自店に必要な本」を揃えているのだという。私はこれに、いちばん驚いた。
……よくよく考えてみれば、お客さんが持ってくる本だけでラインナップを揃え切れるわけないとわかる。だって古本屋さんって、どこも個性的。訪れた際に自分と趣味の合う棚を見つけて、一人勝手にきゅんとしてるときもある。それはつまり、店主の方々がそれぞれある程度の理念や信念を持って本を揃えているということである。
仕入れ方も多様で、古本屋に買いに行くこともあるほか、どうやら古本屋同士で同業者割引の慣習があるらしく、譲り合いをしているそうなのだ。
それぞれ独立した店を運営しているからにはライバルと言う一面もあるが、「私は一人で店をやっていますが、『ひとりで』というのが憚られるくらい」という宇田さんの言葉が好きだった。
偶然『ウララ』に出合い、本を買い、『本屋になりたい』で古本屋の意外な魅力まで知ってしまった。きっと同店にはこういう不思議で魅力的な購入体験をしている人が多いのだろう。私もまたふらっと立ち寄って、まだ見ぬ沖縄の本に出合いたい。
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