『メタモルフォーゼの縁側』を読んでいると、涙腺が緩む。女子高生と75歳の女性がこんなふうに友情を築けるなんて、あまりに尊い……
BLが繋ぐ不思議な縁
75歳、夫に先立たれて3年経つ市野井さんは書店を訪れ、美しい絵に惹かれてマンガを購入する。読んでみるとそれはなんと、BL。続きが気になって仕方がなくなった彼女は、続刊を購入し、のめり込んでいく。
一方、書店のアルバイト・女子高生のうららは、自分の好きなBLを購入し、ハマっているらしい市野井さんが気になる。続きを買いに来てくれた市野井さんに対して在庫切れだったのが申し訳なくて、思わず「貸しましょうか」と言おうとするほど。迷っているうららが愛おしくて、読みながら心中で「頑張れ!」と応援してしまった。
うららは不器用で、友達を作るのも苦手。本当は好きなもので一緒に盛り上がる友達が欲しいのに、人見知りで社交的になれないことに悩んでいる。しかし、BLを通じて、市野井さんと拙いながら友情を築いていく。この温かで不思議な縁に、心がほっこりするのである。
思い描いていた友情とは違うけれど
市野井さんとの関係はきっと、うららが最初に思い描いていた同級生との友情とは違うだろう。しかし、うららの不器用さに寄り添い、拙いながらも必死に伝える言葉の数々を真摯に聞いてくれる市野井さんは、うららにとってかけがえのない存在なのではないか。
「今日全然お話できなくて すみませんでした 私 誰かとこういうお話すること ほぼなくて…」「あの本当に全然… というかむしろうれしかったので」と懸命に伝えるうららが好きだ。市野井さんにおすすめを聞かれて、脳内を一生懸命検索しちゃうところもかわいい。
一方で市野井さんは、生きることに疲れることもあるけれど、うららとのやりとりが希望になっているなあと思う。夫の写真に向かって「ごめんなさいねあなた 私ばっかり楽しくて」と語り掛ける市野井さんに泣いてしまった。
あるいは、BLゆえに過激な部分も避けられなくて「嫌だったら読むのやめてくださいね」と頑張って言ううららに「了解」と親指を突き出す市野井さんのやりとりが好きだった。高校生と大人だからこそ、そのあたりの差も簡単に埋まるんだなあという妙な納得……
何か落ち込むことがあったり、心が荒んだりしたら、『メタモルフォーゼの縁側』を読もう。この優しい世界観にどっぷりと浸って、自分の心を取り戻す。
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