久しぶりに河内遥『夏雪ランデブー』を読んで泣いた。美しい絵とファンタジー、不思議な三角関係

『夏雪ランデブー』はずいぶん前に、表紙に一目ぼれして買った。緑や花が生い茂るイラストが綺麗で、特にあらすじも知らないままに。でも、私の目に狂いはなかった。今でもずっと、大好きな作品の一つとなっている。

久しぶりに読んだら、泣いてしまった。一目ぼれだったが、話もまた、あまりに好きすぎる。

三角関係の隙間から見える、優しくも脆い人の性

花屋で働く「店長」に一目ぼれした葉月くんは、花屋に客として通いつめ、アルバイト募集に応募し、彼女に近づくことに成功する。ところがなかなか相手にされないうえに、あるとき彼女の夫を名乗る「島尾」という男の幽霊が見えるようになる。

島尾さんは死んでからずっと彼女を見守り続けているといい、葉月くんが店長に近づかないようにアレコレと画策する……と、ここまでは割と愉快な三角関係。嫉妬深い島尾さんと知らんぷりしてアピールしようとする葉月くんのやり取りは笑えるし、葉月くんの好意に戸惑いながらも、ちょっと浮かれる店長は可愛らしい。

が、しかし。ことはそう簡単に進まない。

葉月くんは次第に店長にとって「見えない」存在の島尾さんに同情したり、自分は店長に近づけるという優越感を覚えて自己嫌悪に陥ったり、複雑な様子を見せる。店長もまた、葉月くんの好意に浮かれつつも、大好きな夫が頭をよぎり続ける。急に泣いたり、かと思ったら葉月くんに甘えたり、揺らぎがつねに切ない。

島尾さんなんて、最初は相当嫌な奴だ。「死んだら離婚しろ」「俺のことは忘れて」と言っていたくせに、実際幽霊になってみれば、店長を誰にも取られたくなくて葉月くんの邪魔ばかりする。嫉妬深く粘着質な彼の行動はいらいらするのに、店長と二度と会話も交わせず、黙ってほかの男性に席を譲るしかない彼の苦しみに、こっちが苦しくなる。

ファンタジーとリアルが入り混じる絶妙な世界観

さらに言えば、物語も三角関係の話だけでは終わらない、するりとファンタジーの世界に溶け込んで、予想外の展開をもたらす。行き場のない気持ちをどう抱え、どう整理をつけていくか。キャラクターたちの心の移り変わりと、美しいイラストと、ファンタジーとリアルを行き来する絶妙な世界観に浸る。

あるいは、その絶妙な世界観ゆえに、キャラクターたちの言葉が重くも軽くもなり、気軽に読んでいるとふいに、ぐっときて泣きそうになる。例えば、島尾さんが葉月くんを「こうして改めて見ると葉月くんて若いよなあ」「健康なんだなー」と評するシーンは、何気ないけれど病死した自分を責め、恨んでいるように思えて、胸が締め付けられる。

また、店長の突拍子もない行動は可愛らしいのだが、島尾さんの死や葉月くんの登場によって理性と本能がバラバラになってしまった故であると考えると、これまた切ない。ただ、ちぐはぐな思いに振り回され、ときに逃げ、それでも向き合おうとする彼女の優しさと強さが愛おしい。

儚くて美しくて、でも軽快さがあって、笑えて、愛おしさも沸いてくる。やはり『夏雪ランデブー』、大好きな作品です。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。