伊藤まさこさんの『おいしいってなんだろ?』のまえがき、「できたら、なるべくたくさんのおいしいを味わって死にたい」という言葉には、全面同意。「おいしい」はいつだって楽しくて、嬉しくて、幸せ。生きているうちに、できるだけ味わいたい感覚。もはや、私をつくる、合い言葉のような存在だと思う。
同書は伊藤さんが、さまざまな専門家と対談しながら「おいしい」を探っていく一冊。あらゆる観点から語り尽くし、タイトルの質問に愛をもって答えている。
「おいしい」には種類がある
オオヤミノルさんとの対談では「おいしい」の種類の話があった。伊藤さんは「おいしい」=素材と料理法との巡り合わせによるものとは限らないといい、「早弁とか、つまみぐいとか、そういう類いの、こっそりとしているからこその『おいしい』もあれば、好きな人やリラックスできる相手と食べるからこそ感じる『おいしい』もある」(p.8)と語っている。
タイミングや状況、誰が作ったか、今自分が何を食べたいか……さまざまな条件によって、「おいしい」は変化する。それは本当にそうで、別に高級な食材や料理だけが「おいしい」ではないと私も思う。レストランのフルコースも良いけど、夜中のカップラーメンとか、何にも作りたくない日の雑な卵かけごはんとか、最高だよね……
フレンチからファストフードまで並列で「おいしい」を種類として捉えて語っていて、とてもいいなあと思った。私も同じ考えです。
一番共感したのは、はちみつの話。「チーズの時はこっくりしたハチミツが好きだし、ホットケーキの時は日本産の昔ながらのがいい」(p.28)という伊藤さんのコメントがあり、とてもわかる……何でもかんでも高級品がいいわけではなくて、それぞれに合うもの(合わせたいもの)があるのだ。
「おいしい」の味わい方は「食べる」だけじゃない
本書の「おいしい」は食べることだけに留まらない。とにかく幅の広がり方が果てしないのである。健康食の話もあったし、「おいしい本」の話もあったし、レシピ本の話、料理写真の話……実に多様。ちなみに料理写真の話では、私も大好きな細川亜衣さんの本の話もあった。料理の全体像を撮影することが一般的なレシピ本の中で、寄りの写真をふんだんに使っている。初めて見たとき、衝撃だったなあ……
また、印象的だったのは「吉本ばななさんにビビンパを食べてもらおう!」という企画。事前に下ごしらえをした食材とお気に入りの器やカトラリーを持ってばななさんを訪ね、食事しながらおしゃべりするという主旨だった。
私も料理を作るし、料理で誰かをもてなすことも多いが、この企画を読んで「食べてもらう」もまた、「おいしい」の一つであるような気がした。誰かに「おいしい」と言ってもらえると、自分が食べたときと同じくらいの幸福感があるからだ。
となると、つまり「おいしい」とは、食にまつわるありとあらゆる幸せのことなのではないか? と、勝手に結論付けてみる。食べるだけでなく、作ったり、見たり、匂いを嗅いだり、文字で読んだり……「おいしい」はきっと、限りのないものなのだ。もんもんと考えているうちに、なんだか壮大な話になってしまった……
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