ライターを生業としている。ともなると、仕事はまず「書くこと」である。しかしこの「書く」はなかなかにやっかい。
まず、必ず一定時間で書き終えられるとは限らない。内容によって時間は伸び縮みする。取材した内容が複雑であればさらに調査をすることもあるし、構成にも気を遣う。
さらさらっと書けるものもあれば「全然書き終わらない……」と嘆きたくなるものもある。
書く時間帯についても考える。朝が一番集中力が高まっている気がするが、毎朝時間を取れるわけでもなければ、そもそも集中できない日もある。
そうなってくると、時間帯もこれ、という決まりを作ることが出来ない。仕方がないとはいえ、こんなに不安定で、果たして私は大丈夫なのだろうかと心配になる。
夏目漱石のエッセイ「文士の生活」「執筆」を読んで
そんな折に『〆切本』を読んでいたところ、文豪・夏目漱石のエッセイ「文士の生活」、「執筆」に出会った。そこには漱石がどのようにして文章を書いていたのか、端的に綴られていた。
まずは、執筆するタイミングについて。時間帯は決めておらず、また、書き溜めもしないのだという。
一気呵成と云ふやうな書き方はしない。一回書くのに大抵三四時間もかかる。然し時に依ると、朝から夜までかかって、それでも一回の出来上らぬ事もある。時間が十分にあると思ふと、矢張長時間かかる。午前中きり時間が無いと思ってかかる時には、又その切り詰めた時間で出来る。
『〆切本』
まさに共感の嵐。長めに時間を取っておいたのに時間内で書けないこともあれば、時間がないと焦ったときに短時間で書けてしまうこともある……
さらに時間の長さや体調の変化についても、一概に言えないことを素直に記している。
執筆時間は連続的に過ぎても苦痛。断片的に過ぎても困難。其時の身体の具合、脳の健康状態に依りて適宜なるが本当の所ならん。日中と夜間とにて難易の差なきやうなり。季によりて感想は大に異なり。
『〆切本』
あの夏目漱石ですら、執筆時間はバラバラ。時間帯も決められないし、果ては季節にすら左右されるというから、私以上に不安定に思える。
文豪と自分を一緒にするなどおこがましいことこの上ないが、正直、「夏目漱石でもそうなんだもんなあ、ぺーぺーの私ならなおさら仕方ないなあ」と、お気楽モードに突入したのであった。
夏目漱石様、こんな素敵なエッセイを残してくださってありがとうございます。
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