今まで昆虫食を食べたいと思ったことがなかった。どちらかと言えばゲテモノ的なイメージもあるし、虫のカタチを残したものを口に入れる、ということに抵抗があったからだ。
しかし、テレビで『アントシカダ』のコオロギラーメンを見かけ、持続可能性の高い食として「昆虫食」が注目されていることを知り、いつのまにか「一度経験してみたい」と思うようになった。
そして先日、ついに伺った。私の中の昆虫食へのイメージは、驚くほどに覆された。
お通しはコオロギスナックとコオロギビール
『アントシカダ』で食べられるのは、昆虫食を中心としたおまかせのコース料理。アルコール、ノンアルコールのペアリングも行っており、ドリンクも一緒に楽しめる。今回はコース料理に加え、アルコールのペアリングを注文した。
最初に登場したのが、コオロギビールとコオロギスナック(トップ画像参照)。色はコオロギの茶色かもしれないが、見た目には教えてもらわなければ、虫とはわからない。
昆虫食と言えば見た目にもわかるそのままの形を残したもののイメージがあったが、まずそれが間違っていたらしい。
まず、スナック。甲殻類のような旨味がある。えびせんに近い印象の、独特の塩味を感じた。これがコオロギ……正直に言って、かなり美味しい。後に「エビや甲殻類アレルギーの人も楽しめる」というレビューを見たが、納得である。
一方、ビール。こちらは見た目の黒ビールっぽさとは反してさっぱりめ。バランスが取れた味だ。コオロギの味をダイレクトに感じる、というものではないけれど、美味しくいただいた。
タガメにイナゴ、どんどん抵抗がなくなっていく
先述のコオロギスナックで昆虫食への抵抗がかなり薄れたが、さらにイメージは覆っていく。引き続き、虫をふんだんに使った料理の数々が登場した。
タガメやイナゴなど馴染みのある虫たちが、美味しそうな料理として目の前に差し出される。どれも見た目にはわからないが、ソースやだし、食材の一部にひっそりと混じっている。しかし、完全に隠されているわけではなく、色合いや味ではっきりとその個性を主張している。
また、スタッフの皆さんが提供時に、使っている虫の特徴や料理する際のポイント、美味しい部分などについて丁寧に解説してくれる。気が付けば昆虫食が“異色なもの”でなく、”よく知る美味しい料理”へと変化していく。
料理で使われていたイナゴ醤を見せていただいた。単体で味見もさせてもらったが、かなり美味しい。
料理も驚いたが、ペアリングもユニークだった。印象的だったのはタガメのジン。虫というより、もはやフルーツのような爽やかな風味だ。ここまで昆虫食に多様性があるとは思いもしなかった。
地球を感じるコースの醍醐味
ここまで昆虫食について語ってきたが、実のところ『アントシカダ』で提供しているのは昆虫食だけではない。コース料理にはジビエや外来種といった、人間の暮らしの中で駆除対象になるような食材も含まれている。
驚いたのは、アメリカナマズ。テレビ番組でも駆除対象として紹介されているが、ジビエと違い、駆除後に食すイメージはなかった。しかし、今回コースの中で登場したので食べてみると、やわらかく臭みもなく、美味しくいただけてしまった。
正直に言えば、ナマズはやはり泥の中で育ったイメージがあり、なんとなく臭みがありそうな印象を持ってしまっていたが、丁寧に調理すれば美味しい食材に生まれ変わることが非常によくわかった。
また、昆虫つながりで、“虫の気持ちを味わえる”というユニークなメニューも登場した。穴の開いたオリジナルの容器に、ストローを指して中のジュースを飲むというもので、まるで虫が密を吸うような感覚。
中のジュースを当ててみよう、ということでいろいろ推察したが、思ったより当たらなくてショックだった……味覚だけで味を理解するのはやはり、難しい。
そして、深淵へ……まるごと虫を食べる
後半には虫のカタチをしっかりと残した料理も登場した。しかしそのころにはもう、「虫のカタチが残っているものはちょっと……」などという感覚はかなり薄れている。
まるごと出てきても、「どうせ美味しいんでしょ」という絶大な信頼が生まれており、特に抵抗なくパクパクと食べてしまった(そして、美味しいのである)。
苦手な人もいるかと思うので一応 ※閲覧注意 ではあるが、下の画像・〆のコオロギラーメンには、コオロギが乗っかっている。
スナックとビールでコオロギを堪能した私に、もはや抵抗などない。コオロギのだしはスナック同様に独特の塩味と旨みがあり、味わい深かった。
『アントシカダ』なら昆虫食を美味しく食べられそうだな、という期待は最初からあったけれど、そんな期待をも優に超える満足感。料理の一つ一つが丁寧に作られていて美味しかったことはもちろん、スタッフの皆さんが説明を尽くして、昆虫食の魅力を教えてくれたことも大きい。
もしこれから昆虫食に挑戦してみようと考えている人がいるならば、ぜひ、『アントシカダ』に行ってみてほしいなと思う。そこには、まだ見ぬ素晴らしい体験が待っているはずだ。
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