『考えなしの行動?』ジェーン・フルトン・スーリ。何気ない行動に隠れた、デザインのヒント

街中に何気なく存在しているものには、たいてい意味がある。それを改めて理解したのは、街中のフォントを取り上げて調査した本『もじモジ探偵団』であった。自分のものの見方の解像度が上がったような気がして、とてもわくわくした。

ジェーン・フルトン・スーリ氏の著書『考えなしの行動?』は、これよりさらに、もっと無意識のデザインに訴えかけた本だ。何気ない写真がずらっと並ぶ写真集のようなつくりになっていて、一つ一つの写真に写るモノや人の動きの意味を考えていく。

世の中にありふれた光景から「考える」

何気ない動作をしている誰かや動物の写真がたっぷりと掲載されている。あまりにも生活にありふれた光景で、初めて見た人はおそらく「えっと……これが、何か?」となりそうである。

しかし、写真の端には、その動作や情景にまつわる一言が掲載されており、それを読むと一瞬で「なるほど!」とアハ体験のようなものが生まれる。

例えば、ある人が街中のショーウィンドウで自分の様子を確認している写真。私も通りすがりにガラスで自分の格好を確認することは、よくある。しかしこれは、「窓ガラスが鏡になる」という前提知識のもとで成り立っている行為だ。何気なくしていることには、自分の経験則や知識が含まれている。

あるいは、同じガラスでも、手をカップ状にして中を覗き込んでいる人の写真もあった。ガラスの向こうを覗くときによく行われる行為だが、「光の反射でガラスの向こうが見えない時は、手をカップ状などにして影を作り、反射を避けたら見える」という認識があるからである。

ほかにも印象的だったのは、電車の騒音を避けて、駅の隅っこで電話をしている写真や、ヒーターの上でコーヒーをあたためる写真など。どれも日常によくある。日本では、ひと昔前であればストーブにやかんを載せてる家庭も多かったはず。それらはすべて無意識の行動でありながら、どれも脳が自然と「こうすればこうなる」という行動と結果を考えて行っているということ。当たり前の動作過ぎて、何も考えたことがなかった……

こうなってくると、今自分が行っている、ありとあらゆる動作が気になってくる。この文章をブラインドタッチで打っているのは、脳がボタンの場所や「どのボタンを押せば、こういう文章が打てる」ということを認識し始めたからであるし、そもそも、キーボードや画面が「文字を打ちやすく、打った文字を確認しやすい配置」に工夫されているからではないか……?

当たり前に受け入れていたのに、考えれば考えるほど「スゴイ」と思ってしまう。私たち人間はつねに、どうすれば自分の思う結果が得られるのかを、自然と考えているということになる。タイトルの『考えなしの行動?』の意味が、じわじわと沁みてくる。

無意識の行動に隠されたデザインのヒント

話はさらに深く進み、さまざまなデザインや行動の工夫に触れていく。

私は今紅茶を飲んでいるが、本書にも、ティーバッグの先に紐がついていることに注目した写真があった。確かにこの紐があるおかげで、火傷をせずに紅茶を美味しく入れられる。消費者の私たちは今や普通に受け入れているが、そもそも企業側のデザインの工夫の一つだ。スガキヤの「ラーメンフォーク」のような特殊なデザインだけでなく、もはや日常に馴染み切っているデザインも、たくさんあるのである。

あるいは、BIG ISSUEを売っている販売員さんの写真。街中でよく見かけるけれど、彼らはいつも表紙を見せてくれている。これは、何を売っているかわかるように、そして、人の目を引いて購買を促すために、工夫している。

そのほか、道端でライブパフォーマンスを行うサックス演奏者が、目の前にサックスのケースを開けて演奏をしている写真。そもそもはサックスを入れるケースであるけれど、演奏中は投げ銭の集金箱として活かすためだ。聴衆もそのシステムを自然と受け入れ、感動した人はお金を投げ入れている。

私たちが無意識に行っている、「こうすればこういう(自分の望む)結果が生まれるだろう」と予測し、実行するという行為は、日々の暮らしをより良いものに変えていってくれるだけでなく、仕事にも活かされている。それに気づくことができれば確かに、スキルアップやキャリアアップに好影響を与えられるはずだと思った。

本書は、生活の何気ない工夫に気付く視点を持てる、日々の解像度を上げてくれる本だ。それと同時に、仕事や趣味や人間関係などにも、活かせる本ではないかと思った。ふだんの行動では気付かないほどのちょっとしたデザインの工夫が私たちの日常を彩ってくれるのだと、改めて教えてくれた。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。