サマセット・モーム『読書案内 世界文学』。本オタクによる、本オタクのための本

『読書案内 世界文学』はイギリスの作家、サマセット・モームが好きな作家や本を語り尽くした一冊。「読書は楽しくなければならない」とし、とにかく「この作家のここがいい」「この本のここが面白い」と書き連ねている。本オタクとしてはかなり面白く、「わかる~!」「えー、私はそうは思わないなあ」などと、勝手に返事をしながら読んでしまいました……

てっきりショーペンハウアーの『読書について』や小泉信三の『読書論』みたいな内容かと思っていたら、全然違った。読書の指南書というよりも、本オタクによる本のおすすめ集である。

読書は楽しいものであるべきだ

本書内においてモームが一貫して主張しているのは、「読書は楽しいものであるべきだ」ということ。これは本当に共感した。どれだけ世間が良書だと評していても、自分が楽しめなければ意味がない。読書は人生のためになるとか、知識が身につくとか、もちろんメリットとしてそういうことはあるとは思うが、私が読書をするのは第一に、楽しいからである。

ここでは終始、モームが読んで楽しんだ本たちのことが語られている。あくまで「自分が楽しい」ということが主体となっており、決してそれを強要するわけではないことも語っている。

この文章をよんで、わたくしがおすすめする書物をよんでみたい気持になり、さてよみ出してみたところが、どうもおもしろくなくてよみつづけることができないというのであれば、どうか遠慮なくよむのをやめていただきたい。よんでも楽しくないならば、その書物はあなたになんの意味ももたないからである。

『読書案内 世界文学』サマセット・モーム p.39

ちなみに私は、モームの作品で言えば『月と六ペンス』『女ごころ』などを読んだことがある。作風がすごく好きなので、きっとおすすめする本も合うはず……とわくわくしながらページを捲った。

モームが見る自国の文学

モームがまず語っていたのが、自国・イギリスの作品たちのことだった。イギリス文学オタクとして、これはかなり気になるところ。特に面白かった作品として、デフォー『モル・フランダース』やフィールディング『トム・ジョーンズ』、スターン『トリストラム・シャンディ』、サッカレー『虚栄の市』、エミリー・ブロンテ『嵐が丘』などが挙がっていた。どれも、現代でも読まれ続けている名作で、私もほぼ、読破済み。

読んでいなくて気になったのは、ボズウェルの『サミュエル・ジョンソン伝』。「英語で書かれたもっともすぐれた伝記」と評している。

これはあなたがいくつになっても、有益に、かつ楽しくよむことのできる書物である。いついかなるときも、手当たりしだいにどこを開いてみてもかならずおもしろくよめるという書物である。

『読書案内 世界文学』サマセット・モーム p.47~48

えーっ!? そんなに!? 気になる。気になりすぎる。誰かの伝記でそんなに面白く読める本が存在するなんて……早速調べてみたが、なかなかに重厚そうな本である。

個人的にテンションが上がったのは、ジェイン・オースティンを「完璧な作家」と評していたこと。大好きなオースティンがモームによって熱く語られているのは、こちらも胸が熱くなる。「彼女ほど、人間を見る鋭い目をもった者が、これまでほかにあったろうか。彼女以上に、細かい心づかいと慎重な分別とをもって、人間の心の奥底に探りをいれた者が、ほかにあったろうか」(p.54)って、一言一句、同感です。

そして、モームの一番のお気に入りがまさかの『マンスフィールド・パーク』だったことも、なんだか嬉しい……モームが現代に生きていたならば、ぜひオースティントークをさせていただきたかった……

ヨーロッパ文学・アメリカ文学もピックアップ

ヨーロッパ文学としては、セルバンテスの『ドン・キホーテ』、トルストイの『戦争と平和』や『アンナ・カレーニナ』、ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』、スタンダール『赤と黒』『パルムの僧院』などなど、こちらもやはり、現代でも読まれ続ける名作がたっぷり。

アメリカ文学も同様で、ヘンリー・ジェイムズの『アメリカ人』、マーク・トウェインの『ハックルべリ・フィン』などが挙げられていた。それだけでなく、全く知らない作品も多数あり、個人的にメモしまくりました。積読が増えていく……

印象的だったのはフランス文学のあたりで、プレヴォの『マノン・レスコー』を挙げていたこと。私も大好きな作品である。マノンの魅力について触れ、「この美しいマノンの記憶が、人々の心から消えうせることがあるとすれば、それはよほど長い年月がたってからのことだろうと思う」(p.89~p.90)と締めくくられている文章にうっとりした。

あるいは、ヴォルテールの『カンディード』について。「これほどわずかなスペースのなかに、よくもこれだけの分量が圧縮できたと思えるほど、多くの機知、嘲笑、あくどい思いつき、良識、諧謔がふくまれている」(p.90)とあり、確かに……と頷く。同書はとにかく教訓の応酬で、話を楽しみつつも、生きていく上で考えるべきことを、これでもかというくらいに詰め込んでいる印象があった。

「世界文学」の副題にふさわしく、たっぷりと世界各国の文学が語られていた。これから海外文学、特に少し古いものを楽しんでみようという人にとっては、もしかしたら最良の入門書と言えるかも。

日本文学はなかったけれど、モームがもし今、日本の文学を読んでいたら、何を語ってくれるんだろうなあ……

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食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。