東京にはたくさんの美味しいパン屋さんがある。しかし、たくさんあるからこそ、なかなか行けない店も多かったりする。近年、東京にはいったいどんなパン屋があって、どんなパンが売られているのか。東京のパン屋事情を『東京のおいしいパン屋さん』(2016年/KADOKAWA)で学んでみることにした。
2種を掛け合わせたハイブリッドブレッドの登場
ハイブリッドブレッドとは、2種類のパンを掛け合わせたパンのこと。例えば、クロワッサンとマフィンを掛け合わせて「クロフィン」やクロワッサンとベーグルを合わせた「クローグル」などが挙げられる。掛け合わせることで食感や味わいに新たな変化が加わるほか、見た目も楽しい。本誌ではクロワッサン系のハイブリッドブレッドが中心に紹介されていた。クロワッサン食パン、クロワッサンピッツァなどもあるらしく、奥が深い。
“懐かしくも新しい”コッペパンの今
ここ数年でコッペパン専門店はずいぶんと増え、昔からコッペパンを提供している店も注目を浴びるようになった。本誌に掲載されていた『吉田パン』『大平製パン』などは今や「コッペパンといえば」な名店として知られている。
昔ながらのコッペパンは、ジャムやあんこ、惣菜であれば焼きそばなどを挟むのが定番だったけれど、現在はより多様になった。抹茶クリーム、チョコクリームなどの甘い系、ポテトサラダや肉じゃが、エビフライなどのおかず系などもある。また、パン自体も各店が趣向を凝らしたつくりになっており、一口にコッペパンと言ってもじつにさまざまな顔を持っている。
シンプルな塩パンが改めて注目されるとき
塩・バター・小麦粉を基本につくられる塩パン。数多あるパンのベースのような存在といえる。しかし、シンプルなつくりだからこそ、店のこだわりを知る一品として注目されている。
本誌では、『ドンク』や『ポンパドウル』、『PAUL』などの人気店の塩パンが事細かに紹介されていた。その内容によれば、それぞれ使っているバターや塩が全く違うようだった。
例えば『ドンク』の「旨み岩塩のロールパン」は、加塩バターを包んでさっくりと焼き上げ、フランス・ロレーヌ地方の岩塩をトッピングしている。一方で『リトルマーメイド』の「塩パン」は、バターでなく有塩マーガリンを使用。塩は、フランス産ゲランド塩を散らしている。
さらに、成形もそれぞれで異なる。基本には、クロワッサンのように生地をくるくると巻く。しかし、『PAUL』の「パン・サレ」はまるっとしているが、前述の『ドンク』「旨み岩塩のロールパン」は細長く、『ポンパドウル』の「塩パンロール」は三日月形である。シンプルなつくりながら、それぞれの店の個性が光るパンの代表的存在。食べ比べてみると面白そうだ。
異業種から参入。他業界のノウハウを活かす
飲食業界は異業種からの新規参入も多いが、やはりパン屋でもあるらしい。ここで紹介されていたのは二店。
まず、北千住『R Baker』。大阪の人気店をTSUTAYAがフランチャイズ展開した1号店で、カウンター席や壁一面に緑が生い茂るテーブル席などでイートインも可能。オープンキッチンで洗練されたデザインも印象的である。本書制作時期から時が経ち、現在は店舗数もかなり拡大している。北千住のみならず、自宅や職場の近くの店舗を見つけるのも良さそうだ。
それから、洋服メーカー「イギン」が運営する『ベーカリーショップ ラヴィアン クレール』。パリをイメージした内装で、シックなデザインはさすが、ファッションメーカーだなと感じる。並んでいるパンも見た目がシンプルで美しい。味もこだわりがあり、自家製酵母のルヴァン種でつくられているそう。
パンをさらに細分化。ワンジャンル専門店の台頭
少し前までは、パン屋はパン屋だった。しかし昨今、パン屋も細分化され、“ワンジャンル専門店”が増えているのだという。「日本はクオリティの高い専門店が多い」とフードジャーナリストのマイケル・ブース氏が自著で仰っていたけれど、パンもその例に漏れない存在なのだろう。
ここでピックアップされていたのは、揚げパン専門店『COCO-agepan(ココ・アゲパン)』(原宿)、フォカッチャ専門店『フォカッチェリア・アルタムーラ』(神楽坂)、フランスパン専門店『SONKA』(新高円寺)、クリームパン専門店『Hattendo cafe』(後楽園)など。どんなふうにバリエーションをつくっているのか、とても気になる。
パン屋はこれからも進化していく
この『東京のおいしいパン屋さん』発売以降も、ずっとずっと、パン屋さんは進化し続けてきたと思う。ここ数年、すっかり高級食パンの専門店が定着してきて、食パンの味の違いを楽しむ人も増えた。こだわりのパンを取り寄せて、料理とともに提供する飲食店も珍しくはなくなった印象だ。
しかし本誌を読んで、パンにはまだまだとんでもない可能性が秘められていることに気づいてしまった。これからも、私がまったく予想できないような進化を遂げていくのかもしれない。今後も楽しみだ。
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