かつお、昆布、煮干し……だしのとり方を知って、食生活をもっと豊かに――『だし生活はじめました。』

「だしのとり方を知っている」ということは、丁寧に生活することの象徴であるように感じる。

だしが好きで、自分でも取りたいと思っていた。そんなとき、本屋でたまたま手に取った『だし生活はじめました。』の冒頭に、以下の言葉が書かれていた。

ここ数年、ずっと「だしくらいとれないとなあ……」と、心のどこかで思っていた。別に、顆粒だしやパックのだしを使うことに罪悪感があるわけではない。ただ、いい年をして、正しいだしのとり方を知らないのもいかがなものだろうかと。

『だし生活はじめました。』梅津有希子

正直、「私のことか?」と目を疑った。その場で数ページ読んだのち、自然とレジへ足を運んでいた。本書で、だし生活をはじめてみたいと思ったのだった。

「だしをとる」は、実は身近で簡単だ

『だし生活はじめました。』は、著者の梅津有希子さんが“だしをとる生活”をスタートさせた体験記。なんとなく難しく考えていた「だしをとる」作業が実は簡単で、しかも自分にとって良いことがたくさんあると気づき、だし生活にハマっていく。

だしを取るのは手間がかかると勝手に思っていたが、本書を読んでみると考え方が覆された。読めば読むほど「あれ、こんなに簡単だったっけ?」と思わされるのだ。例えば、以下はとても参考になった。

鶏ガラはスーパーで買えるし、臭み消しもいらない

何時間も煮込まなくてはならない、臭み消しが必要であるなどと考えたら面倒になる鶏ガラ。そもそも、どこで買えるかも知らなかった。

本書では著者のお母さんが鶏ガラを使う様子が描かれている。まず驚きなのが、スーパーで100円で買えるということ。さらに臭み消しは面倒なので入れず、何時間も煮込むのも大変なのでストーブの上に放置するという。それでも出来上がりは「とっても美味しい」らしい。

もちろん丁寧につくるなら、臭みを消す手間も大事。鶏ガラにもこだわったほうがいいのかもしれない。でも家庭料理なら、それも鶏ガラだしをとったことがないのなら、そこまで気にする必要はない。ひとまずスーパーで手軽に買って、だしをとってみて、こだわりたかったらこだわっていけばいいのだ。

布巾でなくても、キッチンペーパーがあればいい

かつおだしのとり方を料理本などで見てみると、よく「ふきん」が登場する。だしを漉すために使うものだが、専用のふきんを用意しなくちゃいけないと思うと腰が重くなる。

しかし、著者の梅津さんが調理器具店の店員さんに聞いてみると、「キッチンペーパーでも大丈夫ですよ」とケロリ。それだったらうちにもあるし、使いやすい! キッチンペーパーであれば使い捨てもできる。勝手につくっていた“だしに対する謎のこだわりと手間”からずいぶんと開放された。

だしのとり方は人それぞれである

例えばかつおだしをとるとき、かつお節の量や、沸かす分数がどれくらいかよくわからない人も多いのではないだろうか。私もよくわかっておらず、最初はできれば「正しい量を知りたい」と思い、読み進めていた節があった。

ところが本書では、じつに多様なかつおだしのレシピが登場する。料理人の方やだし専門店の社員さん、多くの人が登場するが、それぞれに分量も手順も異なる。いや、かつおだしだけでなく、昆布などのほかのだしもそうだ。言ってしまえば、人それぞれなのである。

実際、だしの名店『にんべん』の社員さんも「だしのとり方は。料理家や料理人によっても違います」とコメント。正しいやり方というのはなくて、自分にとって美味しいと思えるやり方を見つけることが重要なのだろう。

ほかにも、昆布だしは一晩漬けて放っておく、煮干しは頭とはらわたを取らなくてもいいなど、「これならできるかも?」と思わせてくれるアドバイスが満載。とりあえず、自分が手間にならない範囲でやってみるのが良さそうだ。

写真AC

だしをとるとこんなにいいことがある!

さらに本書では、だしをとることのメリットについても触れている。特に注目したいのが、以下の2点である。

調味料が少しだけで済む

だしをしっかりととれば、料理に旨味が加わる。そうすると「味つけは少しの醤油と塩だけで十分」と梅津さん。これは単純に塩分を控えられるということもあるが、「料理がシンプルになり、時短になる」というメリットもある。だしをとる=手間、なんてとんでもない。実は効率化の手段でもあるのだ。

心に余裕が生まれる

冒頭で話した通り「だしをとる」行為は、「丁寧な生活」「ちゃんとしている」という印象がある。梅津さんは「カッコよくいえば、『自分に手をかけている』」と記していたが、まさにそうだと思う。

先の通り、言うほど手間ではない。しかしちゃんとしている感じがする。だしをとる生活を送るだけで、自己肯定感が上がり、心が満たされるのである。せわしなく働く現代人こそ、だしをとる生活をした方がいいのかもしれない。

あらゆるだし研究が掲載。読み物としても楽しい

本書では、梅津さんがだしづくりに挑むだけでなく、さまざまな専門家にだしについて学びに行く過程も描かれている。例えば『にんべん』の社員の方や『分とく山』の野崎洋光料理長、『イル・ギオットーネ』の笹島保弘シェフ、 『町家四川 星月夜』の遠藤料理長などなどのプロの料理人の方々。さらに、昆布の専門店『佐吉や』、「北海道昆布館」などにも訪問。とことんだしについて追及している。

あるいはだしにまつわる実験。ビーフジャーキー、するめ、桜えびなどのふつうではあまり考えられないような素材を使ったり、とり方も煮立てるだけでなく、コーヒードリッパーでだしを淹れるなどいろんなやり方に挑戦しているのだ。

私のように「だしをとりたいから読む」と言う人が多いかもしれないが、シンプルに食の研究書的な意味でも面白かった。読んでみるだけでもおすすめだ。

一通り読んで思ったのは、だしって何となく特別視していたけど、本当に身近なものだということ。私たちはもっとだしを気軽にとったっていいし、もっと暮らしにだしを取り入れてもいいのだ。

本書を読んで、だしに関する考え方が大きく変わった。だしをとることにハードルを感じている人がいるなら、ぜひ読んでもらいたい。



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