ずいぶん前に、母からシリコン製のタジン鍋を貰った。
タジン鍋の知識など全く持ち合わせていなかったが、何となく「蒸すのに便利らしい」くらいは知っていて、まあ、何かには活用できるか、と素直に受け取った。今思えば、母もよくわかっていなかったのではないだろうか。とにかく便利そうだからくれたのだろうなと察する……
そしてなんだか便利らしいソレは、キッチンの奥深くで眠っている。そう、「便利らしい」から抜け出せず、今に至ってしまっているのだった。
しかし、私は突破口を見つけた。平松洋子さんのエッセイ『ひさしぶりの海苔弁』で、タジン鍋の存在意義と活用法を学んだからだ!
タジン鍋はいのちの鍋
タジン鍋はそもそも、北アフリカで使われている素焼きの鍋を指す。私が持っているシリコン製の便利そうな鍋はあくまで日本アレンジのもの、ということだろう。ただ、水のいらない蒸し鍋であることには間違いがなさそうである。野菜や肉を蒸す際に重宝する鍋。
本書によればモロッコでは、これがまさに「いのちの鍋」となっているのだそう。砂漠が多く雨量が少ない気候風土であるために、水のいらない料理は貴重ということなのかもしれない。
あらためて確認してみると、とっても便利な構造……この仕組みを知らないまま、「なんだか便利そう」で終わっていた自分が悔しい。
タジン鍋に、何入れる?
市場、食べもの屋、家庭の台所、どこにでも必ずタジン鍋のすがたがある。ぶつ切りの肉や野菜のうまみがじんわりしみ出た汁は、タジン鍋の威力の証しだ。シチューより濃度のあるこっくりと熱い中身は、蒸し煮にしたクスクスにとろりとかけて食べる。つまり、「貴重な水を使わず煮炊きする」ための必需品なのだ。だから、いのちの鍋。(p.196)
『ひさしぶりの海苔弁』p.196
平松さんは。夏野菜や羊肉を蒸し煮にしているという。羊肉は家で使うことがほとんどないし、あってもグリルだったので、次は蒸し煮にしてみたい。水分が要らない分旨味が詰まっているだろうから、いろんな肉や野菜、魚を試してみるとしよう。
ちなみに本来のタジン鍋は、なかなかに大きいらしい。平松さんの持っているものは重さ三キロ、高さ二十四センチ、直径三十センチだそうで、抱えなければ運べないほど……
ただ、それだけいろんなものに使えそうでわくわくしてしまう私である。いつか大きなタジン鍋を、我が家に迎え入れてみたい。
※『ひさしぶりの海苔弁』より