私のからだの大部分は野菜でできている。
だから“野菜”の本を作ろうと思ったのは、ごく自然なことである。
今日も明日もあさっても、私は野菜に埋もれて生きてゆきたい。
『野菜』細川亜衣
細川亜衣さんの『野菜』は、野菜にまつわるレシピ本である。ただ、レシピ本とはいっても256ページと分厚く、さらに文章量も多く、いわゆる一般的なレシピ本とはちょっと違う。
実際に読んでみると、レシピ本というよりは一冊の物語を読んでいるような気持ちになる。野菜について、調味料について、調理法について……さまざまな料理の基本が愛を持って書かれているからだ。
もしかするとこれがレシピ本の正解なのではないか?と思えてくる。野菜の魅力がたっぷりと詰まった一冊の中身を、今日は少しだけ紹介したい。
物語のように綴られるレシピ
本書の大半を占めるのは、野菜を使ったレシピである。使う野菜は50種類以上、レシピは60種類以上にも上る。野菜料理だけでここまで掲載されているのは、珍しいのではないだろうか。
一般家庭でよく使われている野菜はもちろんのこと、なかなかスーパーではお目にかかれないような野菜も使われており、興味をそそられる。
しかし、魅力的であるのは掲載量だけではない。レシピの書き方も特徴的だ。
まず、本書のレシピ本には手順に番号がない。通常のレシピであれば、「1. 野菜を洗う 2. 野菜を切る……」のように作り方が書かれているものが多いが、その番号がないのである。そうするとまるで、一つの物語のように読むことができる。
例えば、以下は「赤玉ねぎのソース」のレシピの一部分。
赤玉ねぎは皮をむき、根の部分をのぞく。
『野菜』細川亜衣
縦半分に切り、外側から浅い切込みを入れながら1枚ずつむく。
1枚ずつ縦長に切り、さらに四角くなるように切る。
芯に近い内側はすべてははがせないので、
適当なところで同じような大きさに切る。……(以下略)
番号がないことによって、区切らず流れるように作り方を把握できる。もちろん、区切って読んだ方がいいレシピもあるから、従来のレシピ本が悪いわけではない。でも、こうして物語のように読めるレシピには、これまでにない新鮮さと感動があった。
写真集のように美しい料理写真
レシピと同時に印象的だったのが、美しい写真たち。ページいっぱいに野菜や調理過程や、料理の写真が登場する。
料理のレシピ本は一般的に、つくる過程と完成がわかりやすいものがベストと考えられている。それは、実用性を意識するうえで重要なことだとは思う。
しかし、本書はどちらかというと写真集のようなイメージ。食材に思いっきり近づいたり、完成写真でなく調理過程のアップを掲載していたりと、わかりやすさよりも素材や料理のよさを引き出すことを重視している感じがする。それが本書のレシピの雰囲気と合っている。
私は器やカトラリーも好きなので、レシピ本などにある丁寧なテーブルコーディネートも大好きである。それでも、こういう素材を扱っているダイナミックな写真も素敵だ。パラパラとめくりながら眺めるだけでも、楽しい。
食材や調味料への愛
レシピには、それぞれ細川さんによるコメントが添えられている。食材の選び方や調理のポイント、アレンジの方法などを記載してくれていて、レシピを作る際にとても役立つ。
さらに巻末には、塩や油などの調味料、味覚や香りなどの感覚についての考えや、登場するレシピにまつわるエピソードがエッセイのように掲載されている。どれも野菜、そして料理への愛が詰まっていて、読みごたえがある。
本を購入したとき、出版元のリトルモアの方が細川さんのことを「とても文章が素敵な方なんです」とおっしゃっていた。 読んでみてもその通りで、文章からは素材や料理への想いが伝わってくる。
作ってみたい、野菜を活用した料理たち
野菜料理は自分でもそれなりに作っているつもりだったが、本書を読んで新たに出会った野菜や調理法がたくさんあった。どれも興味をそそられるものばかりだったけれど、その中でも特に作ってみたい料理をいくつかピックアップしてみた。
たけのこの春巻き
シンプルにたけのこのみが具材となる春巻き。たけのこのほかに入れたらおいしい具材がいくつか紹介されていたけれど、いちじくや桃、マンゴーなどのフルーツが書かれていて意外だった。たけのことフルーツは合わせたことがないのでぜひ試したい。
新じゃがいものグリーンマヨネーズ
緑系のハーブやねぎを加えた鮮やかなマヨネーズらしいのだが、さわやかな風味が想像できる。ほくほくの新じゃがと相性もよさそうだ。春先にぴったりのメニュー。
にんじんのマッシュ
にんじんをマッシュにするという発想がなかった。シナモンや発酵バターとの組み合わせもしたことがないが、とてもとても、美味しそうである。にんじんのやさしい甘みが生かされそうな逸品。
さやいんげんの高菜和え
野菜を野菜で和えるアイデアはなかなか出ない。高菜は古漬けを使うそうなので、深い味わいになるのだろう。ささっとできそうな料理であることもポイントだ。
水前寺菜の蒸し煮
細川さんのレシピの一番の魅力は、ふだんあまり使わなそうな野菜を取り入れたメニューが豊富に掲載されていること。もっといろいろな野菜を使ってみたいけれど、使ったことのない野菜だと味付けに迷ってしまうので、レシピがあると嬉しい。
水前寺菜は我が家の食卓に上ったことがないので、ぜひ作ってみたい。
野菜は身のまわりにあるものではあるけれど、それでも『野菜』を読んでみると新たな発見がたくさんあった。 紹介したいもの以外にもまだまだいっぱい作ってみたい料理がある。また、我が家の食卓が楽しくなりそうである。
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