「定番料理」はそれぞれの“らしさ”がにじみ出る。『料理集 定番』細川亜衣

『野菜』以来、細川亜衣さんのレシピ本のファンになっている。写真集のように美しい調理過程の写真、番号を掲載しない物語のようなレシピ、個性豊かな味付けと食の組み合わせ、読み心地の良いエッセイ。真似して作るのはもちろん、眺めているだけでもとっても心が癒される。

今回手に取った『料理集 定番』は、細川さんが定期的に作っている料理の思い出やレシピが掲載されている。ラインナップは、多くの家庭で作られている「定番」といえそうなものが多いにも関わらず、作り方や具材に個性がにじみ出ている。参考にするだけでなく、自分の定番も見直したくなる一冊。

汁まで飲める「翡翠そうめん」

すべて拝見してみて、もっとも作りたいと思ったのは「翡翠そうめん」だった。

そうめんは茹でるだけであるし、そこまで個性が出にくいものだと思っていたのが、「だし」に関する話でハッとした。

「だし好きの私と娘は、麺以上に汁を楽しみたいという気持ちが強く、汁まで全部飲み干せる、この“翡翠そうめん”がわが家では定番になった」(p.24)とあり、共感が止まらない。私もだし好きで、汁まで飲みたいタイプだからである……

麺つゆを飲み干すことはなかなかない。飲むというよりは、そうめんをたっぷり入れて「使い切る」という感じ。しかし本書では、飲み干せるように具材とだしを上手に使ったレシピとなっていた。

翡翠、ということで、緑の野菜をたっぷり入れるのが特徴。ここではオクラやピーマン、青唐辛子、きゅうり、モロヘイヤなどが使われていた。

愛用の翡翠色のガラス鉢に翡翠色の野菜が映える。夏が大の苦手な私も、この料理を前にすると、そのけだるい暑さも少しだけ好きになれる気がしている。

『料理集 定番』p.24

私なら何を入れるだろう。オクラはたっぷり入れたいけど、それ以外だとネギやニラとか? 夏に作るとなると季節は外れてしまうだろうけど、春菊、ほうれん草なども美味しいのでは!

家族のための「ピーマンの肉詰め」

ピーマンの肉詰め。我が家では定番とは言いがたいが、まあ何度か作ったことはある。ただ、本当にシンプルなレシピのもの。これまた差異が出にくいものと思い込んでいた。

ところが、本書のピーマンの肉詰めは具材たっぷりで、私が知っているレシピと全然違う。「ピーマンはあまり好きじゃないけれどピーマンの肉詰めは好き」という娘さんのために工夫して作ったものなのだという。

玉ねぎ、トマト、小さく刻んだ肉に、唐辛子、そして、ごま油とかつおぶし。すべてが彼女の好物。どれも、ピーマンとは相性抜群の食材ばかりだ。
果たして、彩りも香りも鮮やかな、ピーマンの肉詰めができあがった。子どものひと言で料理を考える、そんな時間が好きである。

『料理集 定番』p.80

言われてみれば、家族の好みによって「定番」は変わってくる。私と夫が苦手な食べものは(ほとんどないけれど)食卓に上らないし、逆に好きなメニューはしょっちゅう作っている。家族の好き嫌いや食生活によって、その家オリジナルの「定番」が出来上がっていくのである。

旬の食材を取り入れる春巻

『野菜』に乗っていた春巻も美味しそうだったが、ここで紹介されていたトマトと梅干しの春巻、ぜひ作ってみたい。そのときの旬の食材を巻く春巻、とっても楽しそう……季節ごとに春巻パーティしたい気持ち。

最後に、じーんと染みた「定番料理」に関するメッセージを引用したい。

料理はある意味、果てしない。
食べれば目の前から消えてしまうのに、人の記憶の中で生き続ける。
私たちが一生のうちに食べる料理のほとんどは、忘れられてしまうのかもしれない。
でも、その中で、くっきりとした輪郭をもって、あるいは、ぼんやりとした幸せな記憶とともに、心と舌に残ってゆくものがあるだろう。

『料理集 定番』p.206

我が家で何気なく作っている定番料理たちは、いずれ作らなくなるのかもしれない。ただ、おそらく作らなくなっても、思い出とともに心に残っていくはずだ。

「定番」というともの珍しくなく、当たり前にあるもののように感じるが、それこそが尊いと、私は考える。そしてその尊さが、本書にはたっぷりと詰まっていた。

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