私が好きな「海外を旅するエッセイ」まとめ。まだ見ぬ異国の文化や慣習、雰囲気を本から学ぶ

世界は、どこまでも果てしなく広がっている。何度旅に出かけても、知ることができるのはほんの一部で、世界のすべてを体験することは難しい。

しかし、誰かが旅をして得た経験を、本から学ぶことは可能だ。海外を旅した人々のエッセイたちはいつも私に、まだ見ぬ異国の文化や慣習、雰囲気を教えてくれる。

『グアテマラの弟』片桐はいり

片桐はいりさんのエッセイ『グアテマラの弟』は、グアテマラに移住した実弟の話が綴られている。もともと仲良くなかったのに離れたことで逆に連絡を取るようになったといい、やがて片桐さんは、実際にグアテマラに赴くことになる。

印象的だったのはグアテマラの生活事情である。本書によれば、まず、弟さんの家にはお手伝いさんがいるらしい。ただし、お金持ちがメイドを雇うのとは少し異なる。なぜなら雇っているというより、“仕事やお金を貯め込まずに人に回す”という感覚だから。

少しでもお金に余裕があれば、貯め込まずに人に使う。少しでもやってもらえる仕事があれば、貯め込まずに人に回す。彼らはなにやら、少ないお金と仕事をみんなで分け合っているようなのだ。

『グアテマラの弟』p.81

日本でも最近は自分の特技を売り買いするサービスもあるし、私達日本人の中にも、近い感覚を持ち合わせている人はいると思う。ただ、世間全体には染み込んでいないような気がする。

また、何より驚いたのは、日本ではこんなにコーヒー産地として親しまれているのに「現地のコーヒーはまずい」という話。

どこで出てくるコーヒーも、旅行者にとってはコーヒーと認めたくないような飲み物ばかりなのだ。熱い麦茶? しかも香りの飛んだペットボトルの。そんなあんばいである。アンティグアでも。普通に町なかで飲むコーヒーはどこの店のも色だけ濃く出た麦茶。

『グアテマラの弟』p.189

片桐さんがグアテマラの食生活で唯一恋しかったのは、なんとコーヒーで「それ以外他に不足は思いつかない」(p.191)というから笑ってしまう。ただ、読んでいる限り、現地では暮らしに当たり前にあるもので、お金をかけたり、時間をかけて作ったりするものではない印象だった。美味しい・美味しくないを判断する必要すらない、シンプルな生活必需品なのかも。

ちなみに、弟さんは解説にて、本書のことを以下のように記している。

良い事よりも、悪い事の方がニュースになりやすく、どうしても日本に伝わるグアテマラの情報は災害などの悪い事が多い。この本のように明るい話が日本語の活字になるということは、グアテマラに住んでいる日本人としては大変うれしいことだ。

『グアテマラの弟』p.203

私も、思いがけなくグアテマラを知ることになった日本人の一人なのであった。

『ラオスにいったい何があるというんですか?』村上春樹

ラオス……聞いたことはあっても、行ったことはないし、知っていることもほぼない。私の人生では残念ながら、なかなか馴染みのなかった国であるが、村上春樹さんのエッセイ『ラオスにいったい何があるというんですか?』で初めてその魅力を知ることとなった。

同書は、村上さんが世界のあちこちをまわった記録。タイトルのラオスを含め、アメリカ、アイスランド、フィンランド、ギリシャなど、実に多様な国でのエピソードが綴られている。

アイスランドの話では「アイスランドの羊にはしっぽがない」とか、意外にも「森がまったくといっていいくらい存在しない」(暖房用の薪にたくさん使われているから)とか「全土で温泉が出る」とか、意外な豆知識に驚いた。

ほかにも、アメリカのオレゴン州・メイン州両方にある「ポートランド」という都市の話(共通してレストランの質が高いらしい)、ワインを買い込むために通ったイタリア・トスカーナの話など、好きなエピソードがたくさん。

『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』石井好子

もう何の本だったか忘れてしまったが、オムレツにまつわる話を読んでいたら、石井好子さんのエッセイ『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』が登場した。オムレツと言えばこの本、というような記載で、いったいどんな本なんだと気になっていた。

読んでみれば、なるほど、これはオムレツの本。ひいては、料理の本であり、旅の本であり、外国と料理の匂いが香るエッセイであった。

石井さんはシャンソン歌手で、パリを含むヨーロッパやアメリカをよく訪れていたようである。そして、本書ではそれらの食にまつわる思い出が綴られている。どれも美味しそうな文章(言葉から食べ物の匂いや味わいがありありと想像できて、お腹が空く!)であったが、オムレツの話は群を抜いて好きだった。パリでロシア人のマダムが作ってくれたオムレツは、石井さんにとって特別だったという。

そとがわは、こげ目のつかない程度に焼けていて、中はやわらかくまだ湯気のたっているオムレツ。「おいしいな」、私はしみじみとオムレツが好きだとおもい、オムレツって何ておいしいものだろうとおもった。もっとも、私はこどものころから卵料理が好きだったが、そのときのマダムのオムレツが、特別おいしいとおもった。

『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』p.9

どんなふうに作られるかが丁寧に説明されているほか、作るコツ、各国の作り方の違いなどにも触れていて、ありとあらゆる面からオムレツを語り尽くしている。

オムレツはさまざまな国で作られているゆえに、文化や暮らしが入り混じっていて面白い。会話の中で「スペインふうのオムレツって、パリの人は食べるのかしら、私アメリカでよく食べたけれど」とか「ロシアふうの卵っていうのあるでしょう。あの料理、ロシアじゃ、イタリアふう料理っていうのよ」といったセリフが登場し、もうどこの国由来の何の食事なのか、さっぱりわからなくなるほどである。調べてみればフランス発祥であるようだが、ヨーロッパで広がり、いろんな食べ方がされているのであろう。

あるいは、よく作られているものだからこそ、暮らしに溶け込んでいる料理でもある。先のマダムはオムレツにバターを使うが、「戦争中はバタに困った」と話しており、当時の生活の苦しさを説明するのにもオムレツが登場するのだなと、妙に感心した。フランスを中心として、スペインやスイス、イタリアの話もあった。多くの場合、作り方やコツも紹介されているから、本書を参考に実際作ってみるのもいい。

海外の旅を綴ったエッセイたちは、私にありありと現地の様子を教えてくれる。しかしそれと同時に、旅へのきっかけをくれる存在でもあるように思う。「いつか自分も行ってみたい」と心を動かされ、一歩を踏み出させてくれる存在でもあるのだ。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。