野村麻里編『作家の手料理』。作家たちが愛した「食」にまつわるアンソロジー

誰かの偏愛は、新しい発見だらけ。自分と違う趣味趣向であっても、面白そうで面白そうで……ついつい顔を突っこんでしまう。

野村麻里さん編『作家の手料理』はさまざまな作家の食にまつわるエッセイをまとめたアンソロジーである。思い出の料理、食材などをテーマに、作家たちが偏愛を語っている。馴染みある食べ物から、ほとんど聞いたことがない・食べたことがないものまでざまざまで、やはり偏愛は最高であった。

「ジブ煮」の成り立ち、諸説ありまくり

鴨井羊子さんの「加賀煮こと、ジブ煮こと、かくれ切支丹料理」では、ジブ煮について語られていた。ジブ煮、私も一度だけ食べたことがある。とある飲食店にてメニューとして提供されていたものを、いただいたのだった。その際、たしかジブ煮の由来は「ジブジブと煮るから」と聞いたような気がしていたのだが、ここではかなり多様な由来と成り立ちに触れられていた。

例えば、「金沢の酒のみの一人に聞いてみた」という説では、ジブタというフランス人宣教師の名前から来ており、彼が初めて日本の汁ものの中へ「メリケン粉なるものを鴨肉にまぶしてホーリこんだ」からなのだという。これに対して鴨居さんが「ジブタかタブタかネブタかしらないが、そんなフランス語あるのかしら。スペイン人ではないか?」(p.28)と言っているのに笑ってしまった。眉唾物の話である。

成り立ちは、かくれ切支丹料理とする説、それから、『石川県百科大辞典』に記載されている「狩りに出かけた武士が、農家で採りたての野菜と、ありあわせの材料で作ったから」(p.29)とする説などが紹介されていた。いったいどれが本当なんだろう……謎多き料理である。

ちなみにエッセイ内には、旬によって食材を変えるスタイルや、鴨居さんの私流ジブ煮のつくり方なども載っていて、由来はさておき、とっても美味しそう……家でも作れそうなのでぜひ挑戦してみたい。

毎朝芽を出す「明日葉」にパワーをもらう

團伊玖摩さんの「明日葉」は、明日葉についてのエッセイ。明日葉自体は私も何度か食べたことがあり、特に天麩羅が大好き。しかし八丈島でよく食べられていることから「八丈草」とも呼ばれていることや、シーズン関係なく、年中採れる植物であることも知らなかった。そして、いくら摘んでも明日の朝には若葉が生えているから「明日葉」というそうだ。なるほど……

團さんはそんな明日葉の力強さに、元気を貰えているらしい。

八丈に帰って来ると、先ず何よりも先に、庭に出て明日葉の若葉を摘む仕事が仕来りとなって、この葉の芳香に浸ると、島に帰って来た実感が初めて湧き、さあ仕事だ、書き物だ、作曲だ、と机に向かう気持ちになるのである。

『作家の手料理』「明日葉」p.123

確かに、自分がどんな状況であっても必ず芽を出してくれる明日葉は、なんだか心強い。朝一で見れば、「自分も頑張ろう」と思えそうである。これまでは何にも知らずにただ好きで食べていたが、次からは「元気を貰える食材」としても親しんでいきたい。

「しゃけの頭」を食べる習慣?

本書の中で一番驚いたのは、石井桃子さんの「しゃけの頭」の話であった。石井さんはご自身の三大好物の一つとしてしゃけの頭を挙げており、かなり慣れ親しんでいるようだ。正直に言って、私はしゃけの頭を食べたことがない。いや、食べようと思ったこともない。しゃけはいつも切り身かフレークを買うし、私の脳内に頭の存在はほぼないと言っていい。

ところが、石井さんの偏愛を読んでいると、「そんなに美味しいのか」と、どんどん気になってくる。何しろたくさんのきょうだいで取り合う程の代物なのである。

切り身はたくさんできますが、しゃけの頭は一つしかありません。きょうだいたくさんの私たちが、しゃけの頭を珍重するようになったのは、そのためかどうかしりませんが、とにかく、私たちは「コリコリ」とよんで、みんなで頭がすきになってしまいました。

『作家の手料理』「しゃけの頭」p.175

食べてみたい。しかし、いったいどこで食べればいいのだろう。しゃけの頭……今、私はしゃけの頭のことばかりを考えている。

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mae
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。