お気に入りの料理道具に囲まれる幸福。『伊藤まさこの台所道具』

伊藤まさこさんの著作はいつも、身のまわりのものへの愛に溢れている。『伊藤まさこの台所道具』では、お気に入りの料理道具とその特徴や好きなポイント、実際に使って作った料理のレシピが紹介されており、眺めるのが楽しい。

誰もが知る定番道具はもちろん、使い勝手が限られた珍しいものや、意外な活用法も掲載されていて参考になった。

出番少なめなマッシャー、でも家にあってほしい!

我が家にはマッシャーがない。ポテサラなどマッシャーが必要な料理も作ってきたが、ほかの道具で代用してきている。ただし、私は決して「マッシャーいらない勢」ではない。本当は欲しいのに、いつも買うのを忘れているのだ。

伊藤さんがマッシャー紹介時に「こう言っちゃなんですが、ふだんはちょっと忘れがちな道具」とコメントしていて、もう本当に、首がもげるほど頷いた。忘れがち! そう!

しかし、それでもやっぱり欲しい。今回の下記の紹介を読んでいて、特に欲しくなってしまった。

木の持ち手をぎゅっと握り、鍋底目がけて蒸しあがったじゃがいもを押しつぶす……するとまるでムーミンの物語に出てくるニョロニョロのようなじゃがいもが小さな穴から出てくる。この様子がおもしろくておもしろくって。

『伊藤まさこの台所道具』p.40

必要というだけでなく、フォルムも活用法も、なんだか可愛くて愛おしい感じがするのだ。近日中に買うぞ!

圧力鍋があれば、豆を煮るのも無敵

圧力鍋は我が家にもあり、これまでローストビーフやハム系の肉料理、シチューなどの煮込み料理を作ってきた。短い時間で効率的に美味しく料理ができ、重宝している。

しかし、今回本書の圧力鍋紹介を読んで、盲点に気付いた。私はまだ圧力鍋で、豆類を煮たことがないのである。

豆といえば、下ごしらえが大変な食材ランキングの上位(私調べ)。乾燥豆であれば前日から水につけておいて、さらに煮込み時間も長くなってしまう。

面倒くさがりの私は、すでに煮上がっている既製品を使うのが常。とはいえ、本音は小分けの既製品でなく、まとめ買いして自分で煮て、定期的に使える状態にしておきたいところ……

そんなとき、圧力鍋であれば簡単に煮ることができるという。伊藤さんは好物のひよこ豆をよく煮ているそうだ。

とつぜん食べたくなる好物のひよこ豆。今までだったら煮る時間も待てなくて缶詰のものを使うこともありました。
けれど今はストックしている乾燥豆と圧力鍋さえあれば、あっという間に煮上がってしまいます。おかげで夏の定番、ひよこ豆のカレーを作るのもらくらく。

『伊藤まさこの台所道具』p.68

カレーも最高ではあるが、私の中でひよこ豆といえば圧倒的にフムス。フムスが食べたくて仕方がないときが、割と頻繁にある。圧力鍋を使えば、定期的にフムスを食べられる日常になるのでは……!? とわくわくが止まらない。

使いにくいマッシュルームブラシだって、愛

本書の道具紹介の中で、「マッシュルームブラシ」のページが一番好きだ。

マッシュルームにそっくりの、マッシュルームを洗うためだけに作られたブラシ。伊藤さんは運命的な出会いだと思って購入したのに、実際に使ってみると使い勝手が悪いという。

いつものキッチンペーパーのほうが早いかも、と思い悩むも、道具の愛おしさには勝てない。

台所にころんと置かれた使いかけのブラシが、なんだか憎めない表情をしてこっちを見ている。分かったよ、あんたがいるかぎり、私、キッチンペーパーは使わない。そんな気になったのでした。

『伊藤まさこの台所道具』p.112

料理道具は結局のところ使うものであるから、利便性や機能性が欠かせない。しかし、それでも、ずっと使うものだからこそ「自分が気に入っている道具ならそれはそれでいいんじゃないか」と伊藤さんは語る。

私も心からそう思う。これぞ愛だなあと、じんわり心が温かくなった。

写真で見たマッシュルームブラシはまるっとしたフォルムで、これは確かに憎めない。料理中にふと目に入ったら、思わず微笑んでしまいそうである。

以前はとにかく機能性重視で、手入れもいらない、マルチタスクな調理道具を好みがちであった。しかし、コロナ禍に入って料理をするゆとりができてからは、「手入れは必要だけど愛着がわく」とか「使い道は限られるけどあると便利」といったものに目がいくようになった。

利便性、機能性、そして、道具愛。自分にとって心地の良いバランスを探りながら、本書のようにお気に入りの道具を少しずつ揃えていけたらいいなと思う。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。