私の好きな「料理エッセイ」まとめ。暮らしに漂う食の風景、美味しいレシピ、愛おしい失敗談

料理が好きである。そしてそれと同じくらい、料理エッセイを読むのが好きだ。誰かが料理を作っている様子、食べている様子、作り方のこだわり、失敗談……料理にまつわるエピソードは、どんなものであっても愛おしい。いくつか、お気に入りのエッセイをまとめてみる。

『日々ごはん』高山なおみ

料理家・高山なおみさんの日記シリーズ。たくさんの美味しそうな食事が登場するほか、言葉選びが丁寧でじんわりと沁みる。ときどき読み返すと、心が浄化されるような感覚がある。また、各ページの右横には、「ほうれん草のお浸し」「鰹のたたき」「カレーライス」などと、そのページに登場した献立が書かれていて、これらの一部はレシピも紹介されている。

料理家の日々と聞くと、家でもこだわりの料理を作って食べていると思う人も多いかもしれない。確かに日記に登場する食はどれも美味しそうだが、意外にも料理に失敗した話や手を抜いた話などもたくさん出てきて親しみがわく。

『洋食小川』小川糸

作家・小川糸さんのエッセイ『洋食小川』は食の発見とひらめき、そして愛情に溢れている。お気に入りは、お屠蘇のエピソード。小川さんの夫・ペンギンさんが好きで毎年作っているそうなのだが、あるとき日本酒の代わりに屠蘇散を白ワインに漬けてみたという。お屠蘇を白ワインに!? と驚きながら読んだが、なかなかに美味しそうであった。

あるいは、鹿肉のカレーを作ってみたエピソードも好き。私は家で鹿肉を調理したことがないし、あったとしてももったいなくてカレーには入れられなさそうと思っていたが、「カレーにはもったいない」という考えがもったいないと思い直した。新しい挑戦は失敗することもあるかもしれないが、こうした新たな「美味しい」を見つけることにも繋がる。

『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』石井好子

パリを含むヨーロッパやアメリカの食にまつわる思い出が綴られている。どれも美味しそうな文章(言葉から食べ物の匂いや味わいがありありと想像できて、お腹が空く!)であったが、オムレツの話はやはり、群を抜いて好き。作り方、コツ、各国の違いにも触れ、ありとあらゆる面からオムレツを語り尽くしている。

そとがわは、こげ目のつかない程度に焼けていて、中はやわらかくまだ湯気のたっているオムレツ。「おいしいな」、私はしみじみとオムレツが好きだとおもい、オムレツって何ておいしいものだろうとおもった。もっとも、私はこどものころから卵料理が好きだったが、そのときのマダムのオムレツが、特別おいしいとおもった。

『巴里の空の下 オムレツのにおいは流れる』p.9

オムレツの話から世界の食文化の話になり、さらに日本の食に戻ってきて……と、一冊の中で自由に国を行き来しながら、さまざまな「美味しい」に触れることとなった。

今井夏美『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』

著者の今井さんが日常で作る料理のレシピと、食卓まわりの話を綴ったエッセイ。「『食いしん坊』と言われ続けた人生」(p.2)という今井さんの食への愛情が伝わってくる一冊である。特に共感したのは、以下のコメント。

「もっとおいしく」を限りなく追っかけていたいのはやまやまなのだけど、「これなら作れる」と思えるレシピの軽やかさを優先している。まずは毎日毎食、ほどほどにおいしくご飯を作り、健やかに気持ちよく食卓につきたいのだ。

『いい日だった、と眠れるように 私のための私のごはん』p.36

「軽やか」と「ほどほど」は、私にとってもかなり重要なキーワード。完ぺきにこなすことに躍起になっていた時期もあったが、最近はほどよく楽しむことが好きになってきたからだ。本書ではその一例として、ほとんど料理をしないキャンプの話がある。「ダッチオーブンもメスティンも持っていません。ごめんなさい」(p.69)ときっぱり言う潔さに笑ってしまった。ただ、放置して作って(?)いるという炭火焼きはとっても美味しそうだった……

『作家の手料理』野村麻里編

野村麻里さん編『作家の手料理』はさまざまな作家の食にまつわるエッセイをまとめたアンソロジーである。思い出の料理、食材などをテーマに、作家たちが偏愛を語っている。

鴨井羊子さんの「加賀煮こと、ジブ煮こと、かくれ切支丹料理」では、ジブ煮の多様な由来と成り立ちに触れられていた。かくれ切支丹料理とする説、それから、『石川県百科大辞典』に記載されている「狩りに出かけた武士が、農家で採りたての野菜と、ありあわせの材料で作ったから」(p.29)とする説……いったいどれが本当なんだろう……

また、本書で一番驚いたのは、石井桃子さんの「しゃけの頭」の話。石井さんは三大好物の一つとしてしゃけの頭を挙げており、かなり慣れ親しんでいるようだ。正直に言って、私はしゃけの頭を食べたことがない。ところが読んでいるうちに「そんなに美味しいのか」と、どんどん気になってくる。食べてみたい。しかし、いったいどこで食べればいいのだろう……

料理の思い出は十人十色、千差万別である。だからこそ、誰かの料理にまつわる思い出や、その家系ならではのレシピ、偏愛などを読むと、心が躍る。自分の日常にあるゆえに共感もありつつ、知らない世界を教えてもらえるわくわくも感じられるから。

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