何度でも読みたくなる本たちは、私の人生を豊かにし、支えてくれている。
『&Premium』2019年10月号の特集は、「あの人がもう一度読みたい本」。たくさんの著名人たちが、自分の心に残っている本を紹介している。
自分がもう一度読みたい本はぱっと思いつくが、誰かが同じように思う本を聞くことはなかなかない。でもきっと、誰かが「もう一度読みたい」と思う本は、私がそうであるように、その人を支える一部になっているのだろう。本誌から、気になった書籍とともに感想をメモ。
もう一度読みたい本が、私たちにもたらすもの
特集「私が、もう一度読みたい本。」では、本好きの著名人11人の人生に影響を与えた“心の本”をいくつか紹介している。影響の与え方はいろいろであるが、本誌を読み終えて感じたポイントは、以下の3つだった。
キャラクターの行動から勇気をもらう
本の主人公の行動に自分を重ねたり、作品内の言葉に強く共感したり……こうした体験はその人の人生を作る一部になる。その経験を繰り返し、自分を深めていくのだろう。
料理家の高山なおみさんが選んだ本の一つは、長田弘さんの『本を愛しなさい』。少年が出版社を辞めて大学に行くことを決意するシーンで「“自分の感性を信じて生きる”という決意の表れ」を感じた高山さんは、自分を重ね合わせて読んだそうだ。
あるいは、作家の落合恵子さん。働いていた1960年当時、今より働く女性に対して厳しく、ハラスメントも多かったという。そんなときに助けてくれたのが、『石垣りん詩集』だったそうだ。
当時の私は仕事自体は面白いながら、自分が本当にしたいことと担当させられる仕事の間にギャップがあり、昼休みになると石垣さんや新川和江さんの詩集を抱え、大急ぎで食事をしてから、知り合いが来ない喫茶店に行って、ひとり読んでいた記憶があります。
『&Premium』2019年10月号「あの人がもう一度読みたい本」落合恵子
実は私も会社員時代に、ランチタイムに近くのカフェに出かけて、当時の担当していた書籍とは全く関係ないカズオ・イシグロの『忘れられた巨人』を読み続けていたことがあった。あの時間は確かに、当時の私を助けてくれていたなと感じる。
新しい視点を教えてくれる
人生において初めての発見をくれた本もまた、自分にとって欠かせないピースとなるはずだ。
作家の綿矢りささんは谷崎潤一郎の『卍』を書き手として心に残る本に挙げていた。良家の出身である妻・園子は夫に不満があり、学校で知り合った光子と恋に落ちる。
しかし光子もまた別の男と付き合い、園子は嫉妬にさいなまれる。恋愛に翻弄されるキャラクターは、谷崎作品の要であるといえるだろう。
例えば私は一対一での会話の場面を書くときに、つい二人の周りにだけ焦点をあてがちなんです。谷崎は俯瞰した目を持ちつつディティールも描写している。そういうふうに書けるといいなと思うことはあります。
『&Premium』2019年10月号「あの人がもう一度読みたい本」綿矢りさ
確かに谷崎潤一郎の作品では、着物や髪形、使っている便せんなどもディティールが細かく描かれている。以前谷崎作品に登場した着物展を見に行ったことがあるのだが、こうした再現の展示ができるのも、作品の細かな描写があってこそなのだろう。
本は、ふだん自分が気づかない視点を教えてくれることがある。綿矢さんは書き手としての視点を得ているが、私は本から、職業選択や自分の在り方など、日常では得られなかった新たな視点を、たくさん与えてもらったなと思う。
自分の悩みを解決してくれる
悩みに寄り添ってくれるのもまた、本だったりする。
モデルで「ハウス・オブ・ロータス」クリエイティブディレクターの桐島かれんさんは、人生において「物語の力」にずっと救われてきたと語る。例えばドストエフスキーの『地下室の手記』。
主人公がとても孤独で鬱々していて、これは私だ、と思いました。19歳なんて自意識の塊みたいなもので、自信と焦燥感に苛まれ、鬱屈している時期。この本には私そのものが書かれていると激しく心を揺さぶられました
『&Premium』2019年10月号「あの人がもう一度読みたい本」 桐島かれん
「この本には私そのものが書かれている」という言葉にグッとくる。私も本を読む中で同じことを幾度も思ってきた。
私で言えば、吉本ばななさんや村上春樹さん、江國香織さん、オースティン、ウルフの作品などがそれにあたるだろうか。どうしようもない薄暗い気持ちが心に広がってしまったとき、本に書かれた言葉が自分を救ってくれた経験は計り知れない。
本誌では小説やエッセイのみならず、料理本のような実用書だったり、マンガや雑誌だったりと幅広く誰かの心を支えている「本」を紹介している。読めば自分の心を救ってくれるような一冊に、出会えるかもしれない。
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