俵万智の短歌集『未来のサイズ』で、短歌とともに過去の出来事を振り返る

『未来のサイズ』は2013年~2020年の俵万智さんの短歌がまとめられている。俵さんの作品を読みたいなあと思い手に取り、実際楽しく拝見した。……のだが、取り上げているテーマが時事的なものが多いゆえに、思いのほか、ここ10年くらいのことを振り返るいいきっかけになった。2013年~2020年の出来事が、色濃く作品に反映されている。

短歌で見る2020年、コロナ元年の思い出

2020年の作品たちは特に、コロナ禍の様子がありありと表現されていた。表紙にもある「トランプの絵札のように集まって我ら画面に密を楽しむ」は、まさにコロナ禍のオンライン飲み会を思い出す。トランプの絵札、言い得て妙……!!! 最近は遠方の友人とのオンライン通話もすっかり日常となり、並んでいる皆の顔を見て、一人勝手に「確かに画面上の密……」などと考えてしまっている。

「密」にまつわる短歌はほかにも、「やっと読む『夏物語』小説の中でも我は密を気にして」が好きだった。私も『夏物語』を最近再読したところ。コロナ前に読んだときと、今とでは世の中の情勢はもちろん、ジェンダー的な価値観も大きく変わっていて、読後の感想も異なった。

それから、つい笑ってしまったのは「100日後に死ぬワニのことを心配す あと100日は生きるつもりで」。『100日後に死ぬワニ』、私も当時追いかけて読んでいたが、自分が死ぬことは想像もしていなかった気がする。不思議だ、100日後を見ることが当然だと思っている感覚。無事見られて良かったな……

2013~2016年の出来事、流行、新語を短歌とともに

政治的な短歌もバンバンあり、ただ強烈に批判というよりも、それはやはり作品として成り立っていて、読者の私たちが「こういう意味だろうなあ」と何となく想像できるようになっている。

あるいは、とある事件にまつわる短歌集「未来を汚す」では、淡々と綴られる文字の中に苦しさや恐ろしさが詰まっている。俵さんの強い怒りを感じたし、私自身にも感情がかなり揺さぶられた。何気ない日常の機微を味わえるだけでなく、強いメッセージを込めることもできる短歌。その奥深さを、再認識したのだった。

また、「みんな「いいね」~平成新語・流行語大賞」では、各時代の流行語を取り入れた短歌がユニーク。「そだねー」「くまモン」「バカの壁」などなど、時代を思い出す言葉を取り入れた作品がずらりと並んでいた。ふだん流行語にはあまり関心がないのだが、こう見てみると結構知っていて、それぞれの時代の価値観や空気感のようなものがかなり反映されているように思う。新語・流行語の面白さに、ちょっぴり目覚めた。

多様な短歌に触れた後、あとがきを読み、以下の言葉を噛み締めた。

短歌は、日々の心の揺れから生まれる。どんなに小さくても「あっ」と心が揺れたとき、立ちどまって味わいなおす。その時間は、とても豊かだ。歌を詠むとは、日常を丁寧に生きることなのだと感じる。

『未来のサイズ』俵万智 p.179 

確かに短歌の多くは、生活の中にある一見通り過ぎていきそうな部分を掬い上げて、言葉にしている印象がある。以前に読んだmeri-kuuさんの『夢にみるほど日々だった』はその部分が強く、ゆえに心を掴まれた。

暮らしの小さな出来事は、立ち止まって考えなければ忘れていってしまう。本書のように短歌にすることは難しくても、自分の心が少しでも揺れたとき、その感情や出来事を心に留めて、味わい直したい。それがきっと、人生を豊かにすることに繋がるのだろう。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。