記憶に残る色をテーマにした短編集。『いろごと』加藤千恵

過去の記憶を思い起こすとき、が鮮明に浮かぶときがある。自分や誰かが来ていた服、食べていた食べ物、建物、どんなものにも色があって、その色のイメージがぱっと思い出されることがある。

『いろごと』は色をテーマにした短歌・短編集だ。もともとはファッション誌の連載だそうで、さまざまな色をテーマに、短歌と恋愛ストーリーを描いている。

あとがきに「男女間の恋愛に関する『色事』という意味も含んでいます」(p.124)とあり、ものすごく納得。読み終わるまでまったく気づかなかった……

色が気分の在りようを変える

私が一番好きな作品は、「ピンク」をテーマにした短編。一人の女の子が恋をして、今まで身につけたことのないピンクのパンプスを履いて、好きな人に会いに行くという話だった。

色はその人の気分を変えることがある。その色を身につけることで、頑張ろうとか、楽しもうとか、逆に落ち着こうというのもあるかもしれない。色によって気持ちの持ちようを変えた経験がある人は、きっと多いのではないだろうか。

私も色に勇気や元気をもらうことがある。ピンクは特に、テンションの上がる色。身につけて出かけた主人公に、心の中でエールを送ったのだった。

色で誰かを思い出す

色が誰かのアイデンティティになっていることもある。本書では、好きな人が持っていたハンカチやTシャツの色もテーマになっている。前向きな片思いやカップルであればいいが、失恋後に思い出してしまうものもあり、切ない……

色は記憶に残る。それ自体は決して悪い事ではないが、いかんせん、悲しい思い出や辛い過去と共に残ることもある。

別れるときに、持ち物は全部返したつもりだったのに、一枚、このグレーのTシャツだけが残っていた。以来、時々着るようになった。そのたびに、これを着ていたときの彼の表情や発言や行動を思い出す。そして思い知らされる。まだ彼のことを好きで仕方ない自分を。

『いろごと』p.79

恋愛にまつわる切ない短歌と小説は、加藤千恵さん作品の真骨頂だと私は思っている。読むと毎回、心臓がギュッと締め付けられる。

色をテーマにした恋愛の作品集、ありそうでなかったように思う。少なくとも、私個人は初めて見たし、新鮮な気持ちで読むことができた。



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