加藤千恵さんの短編・短歌集『ハッピー☆アイスクリーム』、高校生の頃に読まずに済んで本当に良かった。もし高校生の頃に読んでたら、あまりの共感に爆死していたと思う。それくらいに甘酸っぱい高校生の青春が、詰まりに詰まっている。とにかく苦しい、そして切ない……
青春を想起させるワードが散りばめられている
各短編は主に高校生の恋愛が主軸に置かれている。特徴的なのは、全体に「青春を想起させるワード」が散りばめられていること。
ミスドで「カフェオレお代わり自由って、素晴らしすぎるシステムだよね」(p.10)と盛り上がる、バス停まで好きな人と歩く、模試に一喜一憂する……あれもこれも、「あれ、私の話してる?」と思ってしまうくらいには、覚えのある行動と感情ばかり。具体的なアーティストの名前や店名が出てくるところも、イメージを浮かび上がらせる装置になっている。
何気ない文章やセリフがリアルで、私の思い出にない話まで、「私の話?」と思ってしまうから怖い。例えば、好きな人が友達を好き、というよくある切ないエピソードは、以下のように綴られている。
あたしは吉村が好きで、吉村はハルが好きで、ハルは別のクラスの男子が好きだ。
『ハッピー☆アイスクリーム』p.19
言葉にしてしまえば単純でありふれた、安っぽいストーリーは、あたしを充分に苦しくさせる。
あるいは、ふいに流れてきた音楽に、共感してしまうシーンも好き。
もっと近づきたいとか、一緒に笑い合いたいとか、陳腐な歌詞のラブソング。メロディもボーカルの声も、すでに似たものがたくさんありそうな、世の中に飽和するくらい溢れていそうな曲。それが、わたしの隠していた気持ちを浮かび上がらせた。
『ハッピー☆アイスクリーム』p.92
巻末・中村航さんの解説では、友達の妹さんが本作を読み、「なにこれ、ヤバい。超ワカるんだけど」と発した話があった。わかる、私もまったくおんなじ気持である。さらに言えば中村さんも同じで「僕は十七歳ではないし、女子高生でもない。でも何故だか凄く『ハッピー☆アイスクリーム』がワカったのだ」(p.193)と言うからスゴイ。どの立場でも性別でも年齢でも、なぜかわかってしまうのが、加藤千恵さんの作品の魅力なのかもしれない。
「短歌」の視点で切り取る、一瞬の感情
『ハッピー☆アイスクリーム』は、短編と短歌からできている。物語は、一瞬を切り取った短歌を織り交ぜながら進んでいく。ところどころで顔を出す短歌が、より小説を鮮やかに見せていると思う。
本当は本編で見てもらいたいので気が引ける部分もあるが、ぜひ魅力を知ってほしいゆえに、同作の中で好きだった短歌を、少しだけ引用してみる。
重要と書かれた文字を写していく なぜ重要かわからないまま
p.31『ハッピー☆アイスクリーム』
いつどこで誰といたってあたしだけ2センチくらい浮いてる気がする
p.66『ハッピー☆アイスクリーム』
まっピンクのペンで手紙を書くからさ 冗談みたく笑って読んで
p.131『ハッピー☆アイスクリーム』
どれもこれも、言葉選びと視点の切り取り方が素敵で参る。そしてやっぱり、「わかる」と思ってしまう。

また、全体を読み終えて感じたのは、小説部分においても、切り取る視点は短歌に近いのではないかということ。ミクロの視点で物事を見ている感じがして、それが一層、ストーリーをリアルに仕立てていると思った。短歌と短編のハイブリッドが、本作の魅力といえるのではないか。
ちなみに、タイトルの「ハッピーアイスクリーム」は、誰かと同時に同じことを言ってしまったときにいち早く叫んでその人にタッチすると、アイスクリームをおごってもらえる遊びである。巻末の中村さんの解説によれば、「おへそちゅー!」とか「進研ゼミ!」とかもあるらしく、めちゃくちゃ驚く。ええ、そんなんあるの!?
ちなみに私の地元は「パイナップル!」で、アイスを奢るシステムはなかった。言い合って終了……アイスのシステムがあったほうが、楽しかっただろうなあ……
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