米澤穂信『ボトルネック』。自分のいないパラレルワールド、そしてタイトルに秘められた意味

そこはかとなく漂う不穏な空気。それをじわりじわりと感じながら、ときに一生懸命気づかないふりをしながら、読み進めていく。あちこちにちらばる気づきたくない伏線を、少しずつ回収して……

『ボトルネック』は、主人公・嵯峨野リョウが崖から落ちたことをきっかけに、パラレルワールドに迷い込んでしまう物語。決して明るいストーリーとは言えないが、読んでよかったなと思わせてくれる作品だった。

パラレルワールドで知る「自分が存在しなかった場合の世界」

主人公の嵯峨野リョウがやってきたパラレルワールド。そこは自分の存在がなく、嵯峨野家には自分の代わりに「サキ」という子どもがいる世界だった。実はリョウには流産で生まれることのできなかった姉の存在があり、このパラレルワールドは、姉が無事に生まれた世界だというのである。リョウの世界ではリョウが、サキの世界ではサキが、嵯峨野家の末っ子として育っている。

二人の環境は似ているようで、少しずつ異なっている。街で営業している店や、家族との関わりあい方もなんだか違う。そしてある決定的な違いにたどり着き、物語は大きく進展していく。

淡々と描かれる世界には、つねになんとなく“イヤな空気”が流れているような感じがする。

たとえば、二人の世界の違いを見つける行為をサキが「間違い探し」みたいだと評し、リョウが違和感を覚えるシーンがある。「こちら側とぼくの側とで差があったとしても、別にそれは間違いじゃないだろう。それを間違いと呼ぶのは、ちょっと残酷じゃないか」(p.42)と考えるからだ。これには賛同する。パラレルワールドの違いを、どちらかが間違いのように指摘するなんてひどいと思う。

ただ、この物語に浸っている読者の私としては、100%賛同とは言えずに苦しい。正直、心中でひっそりと「一方の世界が間違いなのかもしれない」と思ってしまう自分を否定できずに、ページを捲り続けたのだった。

もし私が自分がいる世界といない世界を比べたら、どうなっているんだろう……考えてみたけど、何も変わらないでいてほしいなと思ってしまう。

「ボトルネック」というタイトルが染みる

タイトルの「ボトルネック」はまさに瓶の首の細くなっている部分を指し、それが転じて「システム全体の効率を上げる場合の妨げとなる部分」を意味するらしい。本書を読むまであまりなじみのない言葉だったので、なるほど、と頷きながら読んだ。

正直、タイトルがこの物語にこんなに染みるとも思わなかったし、タイトルを見て苦しくなるとも思わなかった。知ってしまったボトルネックの意味は、想像以上に私を暗い気持ちにさせた。だが一方で、その意味こそが「いい作品だった」と思わせてくれる一端を担っているとも思う。

複雑な感情が交じり合いながら、「でも、そうなんだよな」と納得せざるを得ない感覚で読み終えた。この作品が好きな人とはきっと、気が合う読書友達になれるような気がする。

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