『フルーツバスケット』愛蔵版①。十二支と猫、そして愛すべきおにぎりの梅干し

人生で最も好きな少女漫画は『フルーツバスケット! 大人になっても何度も読み返し、愛蔵版まで手に入れてしまうほどだ。

物語は主人公の女子高生・本田透が不思議な美形の一族「草摩家」と出会い、居候するところから始まる。家主の草摩紫呉、紫呉の親戚で透と同級生の由希と夾には、あるとんでもない秘密があった。なんと、異性に抱きつかれるとそれぞれ十二支の動物に変身してしまうのである。

……と、なんだかファンタジーなあらすじだが、それだけに終わらない。彼らはこの「絆」、あるいは「呪い」と呼ぶものに苦しめられていて、向き合ったり、戦ったり、ときに逃げたりしながら必死に生きている。コミカルな面白さもたっぷりありつつ、泣けたり、考えされられたりする不思議な魅力のある作品なのだ。

十二支と猫

本作で特筆すべきは、「猫」の存在である。先に、キャラクターたちは十二支に変身すると述べたが、正確には十二支ではなく、十二支+1、猫もいる。一説によれば、もともとは猫を加えた十三支であったが、猫は鼠に騙されて動物たちの集う宴会に参加できず、仲間外れになってしまったのだという。

ゆえに、猫に変身してしまう猫憑きの夾は、自分が十二支の仲間外れであることにコンプレックスを持たされて生きてきた。正式な十二支でないことから草摩家からも疎まれ、将来は閉鎖的な空間で生きていくことを約束させられている。

ただ、ほかの十二支たちが悩みなく、楽しく生きているのかと言われれば、そうではない。鼠憑きの由希は知的で人当たりが良く、草摩家からも重宝される存在であるが、子どもの頃からそのしがらみに苦しんできた。実家にいた自分を「檻の中にいるみたいだった」と話す彼の心の傷は、かなり深いものだったんだろうと察する。外から見ればファンタジーな設定は実際呪いでもあって、彼らを苦しめ続けている。

そんな中、偶然草摩家の秘密を知ってしまった主人公の透。彼女との出会いが、彼らを、そして草摩家を変えていく。透は子どもの頃に十二支の物語を読んで以来、猫のファンを公言しており、夾にも「猫が好きなんです」と宣言する。由希とも少しずつ距離を縮めていき、彼らにとって透が、とても大切な存在に変わっていくのである。

私たちはみんな、おにぎりの「梅干し」を持っている

『フルーツバスケット』は繊細な物語も好きだし、コミカルなシーンでしょっちゅう笑っている。が、もう一つ好きだなあと思うのが、「たとえ話」のシーンである。フルバでは定期的に、誰かの悩みに寄り添ったたとえ話が挿入されている。愛蔵版一巻でのお気に入りは、透が人の「素敵」を、おにぎりの梅干しに例える話。

例えば人の素敵というものが オニギリの梅ぼしのようなものだとしたら
その梅ぼしは背中についているのかもしれません…っ
世界中誰の背中にも 色々な形 色々な色や味の梅ぼしがついていて
でも背中についているせいで せっかくの梅ぼしがみえないのかもしれません

『フルーツバスケット』愛蔵版①

自分にはいいところがないと思ってしまう人は、自分の梅干しが見えていないだけ。「そんな事ないのに 背中にはちゃんと梅ぼしがついているのに」「誰かを羨ましいと思うのは 他人の梅ぼしならよく見えるからなのかもしれませんね」という透の言葉は、当時小学生だった私の心にかなり印象的に残った。自分のいいところも、人のいいところも、きちんと見つけられる人間になりたいと思ったのだ。

愛蔵版が出る時代で本当にうれしい……これからも何度でも読み返します。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。