どんな人も安定と不安定の間を往来しながら生きている――『ものするひと』②

オカヤイヅミさんのマンガ『ものするひと』は、アルバイトをしながら小説家として生計を立てているスギウラさんの物語。彼の暮らしぶりや考え方があちこちに散りばめられていて、その優しい世界観が魅力の一つになっている。

動じない(ふうに見える)スギウラさんを羨ましく思う気持ち

スギウラさんは一見すると、動じない人に見える。どんな日も毎日ポメラ(デジタルメモ)に向かってカタカタと文章を打っていて、「安定」を感じさせる存在である。

小説家一本で生きていけているわけではないけれど、自分の道に迷いがないように見えて、私はそんなスギウラさんを見て、勝手に自分の将来への不安を和らげてもらっているような気持ちになる。

登場人物の一人である女子大生・ヨサノもまた、彼を「なんにも気にしてなさそう」と評する。ヨサノはアイドル活動をしながらも、いずれは就職活動をして「バランスをとってそれなりに働く」ことを選ぶつもり。

しかし、まっすぐにアイドル活動をしているOGの先輩を気にしたりして、割り切れていない様子を見せる。そんな中で動じずに小説を書いている(ように見える)スギウラさんを、ちょっと羨ましがっているのかもしれない。

私はどちらかというとスギウラさんのような生き方をしてきたけれど、ヨサノの気持ちも結構わかる。マインドとしては、ヨサノ側の人間でもあるからだ。なりふり構わず、好きな仕事をしている人って、やっぱりすごいなあと感じてしまう。

不安定を受け入れて生きるしなやかさ

しかし、スギウラさんもまた、安定しているように見えて、いろんな不安を抱えている。2巻ではある文学賞発表日に、スギウラさんが受賞したかどうかの連絡を待つ「待ち会」が開かれることになり、文学仲間たちが集まる。その様子を見て、彼は思う。

賞を気にしたり面白がったり
めんどくさがったり
小説はなんて不安定なものなんだろう

『ものするひと』② p.69

当たり前だけど、スギウラさんのように迷いがないように見える人でも、自分の仕事が不安定であることをぼんやり考えたりするのである。安定しているように見える、動じないように見える。でも、それは見えるだけであって、そうとは限らない。

ただ、そんな中で文学仲間の一人がつぶやいたセリフは印象的だった。

普通に賞取ったら次の賞が来て
たぶんこれからずっとこうなんだよね
取らなくても候補になって
売れたり売れなかったりもして

『ものするひと』② p.112

小説家は賞を取ったら終わり、ということではない。不安定な状況は依然として続くのかもしれない。

これはほかのどんな職業にも言えることだと思う。これが終わったら人生上がり、のような出来事はほとんどなくて、どんなに安定した状況であっても、いつかは不安定な時が来る。

私たちはその都度、悩んだり不安になったりして、スギウラさんのような動じないように見える人を、羨ましがってしまうのだろう。

ただ、そんなときにこの作品を読むと、どんな人も多かれ少なかれ不安を抱えているんだなと、しみじみ感じる。そして、思うのだ。スギウラさんや文学仲間たちのように、少しでも不安を受け入れるしなやかさを持つことができれば、人生はほんの少し、ラクになるのかもしれないと。

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