朝、寝ぼけ眼で顔を洗い、コーヒーを淹れる。ゆっくりと朝ごはんを食べる時間がある日は幸せである。これから一日がはじまっていくのだと実感する。
私に朝食の魅力を教えてくれたのは、まぎれもなくマキヒロチさんの漫画『いつかティファニーで朝食を』だ。アラサーの女性4人が集まって、美味しい朝食を食べながら、仕事や恋愛や人生の悩みを話し合う。
どの話も多くの女性の共感を呼ぶ内容になっているのはもちろん、何より描かれる朝食がどれもおいしそうでたまらない。
今回は改めて作品の内容を振り返りながら、朝ごはんの魅力や多様性について考えてみたい。
朝に食べるから「朝食」。それ以外に決まりはない
朝ごはんといえば、寝起きに食べるものであると何となく思っていたし、和食か洋食かの2択でしか考えたことがなかった。しかし、本作品を読んでいると自分の考えがすっかり凝り固まっていたことに気づく。
朝食のスタンスは人それぞれ
メインで登場する4人は、もともと高校の同級生。しかし、現在のライフスタイルは全く違い、同じ時間に同じ店で朝食をとるにしても、その境遇は異なる。
アパレル企業に勤める主人公の麻里子は出勤前に、朝まで営業しているバーの店長・典ちゃんは仕事終わりに、ヨガインストラクターのリサはヨガ教室の出勤後に、主婦の栞は子どもたちを幼稚園へ送った後に集う。これだけ見てみても、朝食を食べるに至るまでの状況も、朝食後の過ごし方も全然違う。
また、2話目では麻里子と典ちゃんが築地の定食屋へ朝食を食べに出かける。その際にたまたま居合わせた市場で働くおじさんを見て、彼女たちははっと気づく。
麻里子「定食の値段 結構いいお値段するけど 市場で働いてるおじさんも結構食べにきてるんだねー」
『いつかティファニーで朝食を』① マキヒロチ
典ちゃん「でも 市場で働いてる人たちからしたら 朝ごはんがディナーみたいなもんでしょ? きっと朝ごはんが一番のごちそうなんだよ」
麻里子「私も朝からあんな幸せそうな顔でいられるような人生送りたいな」
起き抜けの人もいれば、一仕事終えてしまった人もいるし、活動する前に力をつけよう!と食べる人もいれば、休む前に腹ごしらえする人もいる。朝食のスタンスは、人それぞれなのだ。
ジャンルにとらわれない、朝に食べたい多様なごはんたち
朝食と聞いて何を思い出すかと言えば、トーストとコーヒー、あるいは朝ごはんにみそ汁だったりする。しかし、それだけが朝ごはんかと言われれば、当然そんなことはない。
本作品で登場する飲食店は、どれも実在する店ばかり。先述の築地の定食屋『かとう』(※現在は豊洲『粋のや』として運営中)をはじめ、朝食ブームの火付け役にもなった七里ヶ浜『bills』、リッチな朝食ビュッフェを楽しめる『ウェスティンホテル東京』などなど、さまざまな名店が舞台となっている。
一巻ということもあり、比較的王道のお店を掲載してくれている印象があるけれど、それでも朝食の多様性を知るには十分だ。
例えば、6話目に登場する元町・中華街『謝甜記 貮号店(しゃてんき にごうてん)』は中華粥をメインとする中華料理店。朝の8:30から営業しており、朝ごはんも楽しめる。
本作品で登場したのは「ピータン粥」。温かく優しい味わいは、仕事で疲れてしまった麻里子の心をじんわりと癒す役目を果たしていた。お粥は中国の代表的な朝食の一つなのだそうで、新しい文化を知るきっかけにもなった。
毎話お店が登場するので、「こんなお店もあるのか!」と驚きと発見の連続である。朝ごはんはコレ、なんて決めつけず、多様性を楽しんでいきたいところだ。
朝食の時間がもたらしてくれる、新たな気づき
朝食が昼や夜の食事と違うところは、もっともすっきりした気持ちで食事を楽しめることだと思う。同じことを考えるにしても夜はネガティブになりがちなのに、朝はポジティブになることもよくある。
本作品の中でも、登場人物たちが朝食の時間を通していろんなことを考え、気付きを得る。麻里子、典ちゃん、リサ、栞の4人も美味しいご飯と会話を通して、自分の仕事や恋愛や家族について改めて見つめ直し、大事なものを見つけていく。
例えば、はじめて4人で集まった朝食会は、麻里子の同棲中の彼氏・創太郎に関する悩みを打ち明けるところから始まる。雑誌編集者で生活が不規則な創太郎。「同棲したら毎日一緒に朝食を食べよう」と約束していたものの、まったく果たされないまま3年が過ぎていた。朝食が好きな麻里子はその関係に疲れてしまい、親友の3人にSOSを出した。
結局麻里子は創太郎と別れ、一人暮らしを始める。新しい部屋には、ちょっと高いけどとてもお気に入りの、「大好きな朝食を食べるためのテーブル」を買った。朝食をきっかけに、彼女の人生が大きく動いたのだ。
忙しい日はどうしても、朝食が手抜きになってしまう。食べない日だってあって、食事の中でも割と省かれがちでもあると思う。
でも、それではもったいないと『いつかティファニーで朝食を』を読むたびに思うのである。私たちはもっと、朝食の多様性を知り、魅力を再考し、楽しむべきなのではないだろうか。
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