文房具を改めて大切にしたくなる短編マンガ集。『文房具ワルツ』河内遥



もしも自分の身の回りにあるモノたちが、心を持っていたら? なんて想像をする人は決して少なくはないはずだ。子どもの頃から一緒に遊んでいたぬいぐるみや愛用している自転車、日々使っている机や椅子。もしかしたら私が文字を打っているこのパソコンも、私がいないところでは元気におしゃべりをしているのかもしれない。

河内遥さんのマンガ『文房具ワルツ』は、擬人化された文房具たちが動きまわる短編集。消しゴムに鉛筆、定規、万年筆、絵具、クレヨン……さまざまな文房具は人知れず持ち主に寄り添い、ときにひっそりとピンチを救ってくれる。

文房具はいつも、そばにある

文房具はいつも、私たちの身の回りにある。デジタル化が進んで持たなくなった人もいるだろうが、少なくとも子どもの頃や学生の頃は、ノートや鉛筆、消しゴムに囲まれていた人が多いのではないだろうか。

「机上の空恋」の主人公・ナズナは長いこと机に向き合い、何かを書こうとしているが、なかなか言葉が進まない。気分転換に立ち上がってどこかへ行くと、彼女がそれまで握っていたシャープペンシルと消しゴムが語り出す。

シャープペンシル:最近様子がおかしくねえか?ナズナの奴
結局何がしたいんだか、机の前でだんまり決め込み
消しゴム:そりゃーシャアくん 恋煩いでしょ
シャープペンシル:はあ!?聞いてねえよ
消しゴム:そりゃ本人は口にできないサ こんな恋文を認(したた)めるくらいだもの

『文房具ワルツ』「机上の空恋」

思えば、私が一人でこっそり日記を認めていたときも、誰に公表するでもない小説やマンガを描いていたときも、確かに文房具はそばにあった。彼らは私の生活や考えをまるっと知っている存在ともいえる。同作品のように、もどかしい文章に愚痴を言ったり、世話を焼きたくなっているかもしれないと思うと、つい笑ってしまう。

文房具は時を超える

文房具は腐らない。下手をすれば何十年、何百年と生き延びる存在である。そんな当たり前のことを思い知らされたのが、「萬年みた夢」だった。同作品でピックアップされた文房具は万年筆。

ある日ナズナはボロ市で味わい深い万年筆を見つけて購入する。なんとなく歴史のありそうな万年筆はずいぶんと昔、別の女性の持ち物だった。万年筆は想い人へのプレゼントとして購入したが、なかなか渡せない。さらに想い人が結婚することが決まり、万年筆は行き場を失った。

彼女は私で恋文ひとつ書けぬまま 手放すこともままならず
蔵の中 竹行李の中 桐箱の中 まるで棺桶のたらい回し
たしかに私は彼女の初恋の 墓標となっていたのでしょう
ああ 私に自力があったなら きっと彼女に詩を書いたのに

『文房具ワルツ』 「萬年みた夢」

前の持ち主の恋を叶えられず、希望を失ったままさまよい続けた万年筆だったが、ナズナに買われ、新たなブルーのインクを補充される。新しい持ち主のナズナは「巡り巡ってココにいる不思議」と、万年筆との出会いに不思議な縁を感じているのだった。

文房具はいつも、何気なく身のまわりにある。でも思い返してみると、それぞれに出会いがあって、いろんな苦楽を共にしたりして、いつのまにか相棒のような親友のような、ちょっと心強い味方になっていることがある。本書を読んで、今一度自分の文房具を見直し、大切にしていきたいと思った。