2019年5月6日、「文学フリマ」に行ってきた。プロアマ問わずさまざまな人が自作の小説や詩や短歌などを売るイベントである。今回で28回目になるらしく、年々賑わいを増している。
私はツイッターでその情報を受け取り、絶対に行くと数か月前から決めていた。ふだん見られない面白い作品に出合えるかもしれないと思うと「この日は空けておかなければ」と強く感じたのである。
開催日が近づくたびに、さまざまなツイッターアカウントから参加表明や販売予定の作品情報が流れ始めた。徐々に明らかになっていくラインナップはどれも興味深く、数日前には予算の段取りまで考えていたほどだ。
当日はGW中の激しい雨風のせいで若干風邪を引いたが、そんなことでは中止になどできない。ふだんほとんど乗らない東京モノレールに乗り、いざ、出陣したのだった。
見本誌コーナーで作品を事前確認
文学フリマ会場の近くには見本誌コーナーがあり、事前に販売されている作品を確認できる。実際に向かうと、信じられないほどの数があった。
取りこぼしがあったらもったいないと、ひたすらに気になるタイトルや表紙を手に取っていく。面白そうな作品はスマホにタイトルと作家名をメモした。
しかし、メモを繰り返しているうちに「ちょっと待て、気になる作品が多すぎる」と気づいてしまった。どんどんメモが増えていくが、こんなに買えるわけがない。仕方がないので改めて見直し、どうしても行きたいと思うところだけに改めて修正した。

筋書き通りにいかない
計画的にまわるつもりでメモをしたはずだった。しかしいざ会場に入ると、無数に並ぶ作品たちがどれも気になって仕方がない。とりあえず「ア」のコーナーから順番にまわることにした。
まず、伊藤佑弥さんの『僕の休日は誰かの平日』をゲットした(のちのほかの方々のレビューで僕のマリさんとの『二月』もすごくおもしろかったと聞き、買わなかったことを心底後悔した)。
その後も順当に回っていこうとするが、予定外のところで引っかかる、引っかかる。見本誌は代表作しか置いていないので、実際のブースに行くとより良い作品が見つかってしまう。ただ、これは確信した。この偶然の出会いもまた、文フリの醍醐味、ということだ。
そのほか、購入した本たちのこと
いろいろ見て回り、最終的に買った本たちは以下。
『僕の休日は誰かの平日』伊藤佑弥
表紙が好きで購入。私の休日だって誰かの平日だし、誰かの休日だって私の平日なんだよな……と当たり前のことだけど、自分の中で新鮮な気づきがあった。日記形式でいろんな人の日常が語られていて面白い。
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『漱石全集を買った日』山本善行×清水裕也
山崎ナオコーラさんの作品が目に入って立ち寄ったのだけれど、売り手の方と話しているうちに『漱石全集を買った日』を手に取ることになった。清水さんが古本にはまり、ずぶずぶと沼に落ちていく(そして古本病になる)過程を古本屋店主の山本さんと対談形式で話している作品。
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『空想純喫茶 七つのエピソード』難波里奈
西国分寺にあるクルミドコーヒーを拠点とするクルミド出版は、喫茶店をテーマとした物語を複数並べていた。作品自体も喫茶店のお客さんが書くなど、面白い試みが目立つ。なかでも気になったこちらを購入したが、複数買えば製本してもらえるサービスもあった。
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『かえるの校正入門 ~見落としをふせぐ10のルール~』大西寿男×大場綾
編集者になりたての頃、校正をどこで学んだらよいかわからず困ったことがあった。もちろん校正には校正のプロがいるけれど、編集者も確認することが欠かせない。本書はかなり基礎の基礎を教えてくれていて、改めて校正を考えるいい機会になった。と同時に、新人の頃に欲しかった……とも思った。
『ことばの扉をひらく』かえるの学校
先述の校正入門と同じく、「かえるの学校」で販売されていた。校正教室の生徒の方々が気になることばを一つずつ選び、辞書を引き、それにまつわるエッセイを書くというもの。ことばが好きがわくわくする企画と言える。
『夢に見るほど日々だった』meri-kuu
短歌ユニットmeri-kuuさんの作品は事前にツイッターでチェック済みだった。会場には本書でモデルを務めたちょいさんがいらっしゃり、少しだけお話をさせてもらい解散。人気のブースだったので、人が定期的に来ては購入したり会話を楽しんだりしていた。
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『みのまわり vol.3 器』みのまわり編集部
「器」というワードと料理の写真が気になり、雑誌『みのまわり』をゲット。エッセイや小説などがたっぷり詰まったボリュームのある作品だ。器というと料理を乗せるお皿を思い浮かべがちだけれど、これを読んでいると器の意味の広さを考えさせられる。
『パリのガイドブックで東京を闊歩する』友田とん
こちらも事前にツイッターでチェック済み。ブースには著者の友田さんがいらっしゃって、「ツイッターで見て来ました」と伝えて購入した。いったいどんな話なんだ???と謎に包まれるタイトルが好きだ。
『よくねたパン』みのわようすけ
とにかく表紙がかわいいのと、良い感じにゆるやかな日記が、試し読みした際に心地よかった。まずは一冊買ってみよう、と購入。冒頭が548話なので途中から作品を購入したことには違いないのだが、全然関係なく楽しんで読んでいる。短編のような、誰かの日記をのぞき見しているような、不思議な感覚だ。
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『文化と表現 Vol.22 特集:「読むこと」』青年文化ゼミ有志
こちらも見本誌で面白そうだなと思い購入しに行った。特に値段は見ていなかったが、ブースに行ったら100円ですと言われて驚いた。「安すぎませんか?」と衝撃を受ける私に「できるだけ多くの人に見てもらいたいので」と笑う売り手のお兄さん。がんばってくださいと心の中でエールを送った。
『はまぐりの夢』『140字小説』lotto140
ツイッターの民としては、140字で物語をつづることにはかなりの美学を感じる。見本誌がとても面白かったので、ブースで購入した。140字でこんな面白いこと言えるか?私は絶対に言えない。
『映画の中の女たち』亀井みゆき
イラストが驚くほどかわいい。ツイッターでひっそりといいなと思っていたのでブースへ行って吟味した。大好きな『かもめ食堂』が載ってるということもあり、こちらを購入。癒される。
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『海猫』
大学院でお世話になった学校の皆さんが出版しているようだったので、何か縁を感じて手に取った。さわやかな笑顔の皆さんが印象的だった。同じ大学に行っていたことを伝えると「先輩!」と言われてしまい、ちょっと恐縮した。
『かわいいウルフ』小澤みゆき
これを購入しに行ったといっても過言ではない。文学好きとして、イギリス文学の畑にいる身として、これは絶対に読みたい、そしてウェブではなく直接ブースで買いたいと思っていた。
が、思い入れが強すぎて「メモしなくても頭で覚えてるしな」と脆弱な記憶力に頼った結果、すっかり購入するのを忘れて会場を出て、駅まで行ってしまった。電車に乗る直前に気づいて、わざわざブースに戻った。残り2部だったので本当によかった(戻るまで気持ち悪くもめちゃくちゃツイッターの売れ行き状況をチェックしていた)。
そんなわけで、無事に私の文フリデビューは華々しく幕を閉じた。かなり充実しすぎて、いや、こんな満足げに帰る人おる?と自分で自分を褒めたいくらいだ。次は11月ということで、また懲りずに予算を決めて参戦したいところである。
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