みのわようすけさんのショートショート集『よくねたパン』を読んでいると、夢と現実の境目が揺らいでいって、不思議な感覚に陥る。これは本当の話? それともフィクション? わからない、でも、面白くてついつい笑ってしまったり、感心してしまったりする。
ふわふわと夢見心地で読了。「摩訶不思議」という言葉がぴったりである。
日常の不思議な疑問のこと
日常にある小さな疑問も、ショートショートになるのだなあとしみじみ。例えば、第552話「無添加チーズ」では、「スーパーで無添加チーズを選ぶ。何も添加せずにどうやって作るのだろう」(p.6)とあり、「確かにそうだな……」と妙に納得させられる。
あるいは、本書を通して一番好きだったのが、「第556話 成立しないダジャレ」。
「足だけに、はーい。お疲れ。」
『よくねたパン』p.8
と言われた。ダジャレかと思ったが振り返ってみると、どこがかかっているのかわからない。
何というか、本当にあった怖い話……? 変な怖さがあって、声に出して笑ってしまった。本作には、こうした小さな日常の出来事がいくつも散りばめられている。
不思議なショートショートに浸って……
とっても短いのに起承転結があるショートショートは、手軽に読めるのでハマってしまう。例えば、第563話「幾何学メロン事件」では、プールで起こった殺人事件が綴られている。警察の捜査が入り、手がかりがあり……と一見一般的な殺人事件のように思われるが、1ページにも満たないうちに大どんでん返しがあり、「ええ~!!」と驚いてしまった。
あるいは、第567話「シティフォン」も好きだ。携帯電話(シティフォン)にまつわる話なのだが、SFのような展開が面白かった。一応リアルにはないへんてこな(でも便利な)機能を搭載していたのだが、リアルでもありそう……ありそうでない、というか、あっても驚かない。
それから、第572話「二十四時間ピザ」は、会社の福利厚生(?)で一年間二十四時間ピザ食べ放題となった話。一瞬喜んだが、「二十四時間とはもしかしたら徹夜ささえるつもりかもしれないと考えると恐ろしくなってくる」(p.23)とあり、急にブラック企業の片鱗を感じて背筋がぞわっとしながらも、おかしくてにやにやする。感情がいくつも飛び出し、せわしない。

日記? 創作? リアルに響く空想の話
「第~話」と書いてある。だから創作だと思って読んでいる。それなのに、ところどころで「あれ、これはリアルの話?」と頭が混乱する。リアルと空想の境目を見ていて、ときにリアル、ときに空想と、自分があちこちをさまよっているような気分である。
第672話では、スーパーで枝豆の殻が置いてある話があった。「どうやら売り物のようである」といい、特殊なルールにより、食べていい人とそうでない人があるらしい。よくよく読んでみれば、殻を食べるなんてあるわけないのだが、設定や場所や、話しているテンションがリアルで、なんとなく「ありそう」と思ってしまった……淡々と綴られていることもあり、変な錯覚に陥ってしまうのだった。
ちなみに、表題の話も収録されていて、そちらも楽しく読んだ。まだ感情が、ふわふわしている。
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