ももこメンタルが宿る真面目なおふざけエッセイ!『風と共にゆとりぬ』朝井リョウ

朝井リョウさんのエッセイ『風と共にゆとりぬ』を読むときは注意が必要だ。つい「ぶはっ」とふき出してしまうのを必死にこらえなければならない。できれば家で、一人で読むのがいい。急に笑い出して、不審者になりたくなければ。

ふざけられる場所を追い求め続ける

朝井さんの文章は面白い。それはもちろんなのだが、最も凄みを感じたのはエピソードからうかがえる行動力であった。

なにせ、エッセイを読んでいるとそこらじゅうでふざけられる機会を探しているし、関心があることに半端なく手間暇をかける。小説家の方は取材もするだろうし、深堀する作業も必要だろうけれど……好奇心と行動力に脱帽する(そして笑う)。

例えば「作家による本気の余興」では、柚木麻子さんと共通の知人の結婚式で余興をする話がある。二人は替え歌を作ることに決め、せっせと打ち合わせを行う。

私も柚木さんも、当時(そして残念ながら、今も)『替え歌』という幼稚な娯楽にハマっており、あらゆるイベントや場面に合わせて替え歌を作っては披露するという調子に乗った大学生のような愚行を繰り返していた(いる)。これまで高めてきた替え歌スキルの集大成を披露するステージが、担当税理士の結婚式というのも……うん、悪くない。

『風と共にゆとりぬ』「作家による本気の余興」p.36

柚木さんとのやり取りはもはや阿吽の呼吸。替え歌の歌詞も小気味よく決まっていく。余興でふざけることにそんなに全力かけられる……? 今、走馬灯のように自分が参加した余興の数々がかけめぐっている。私だって頑張った、でも、なんか頑張る方向性が違った気がする。

一方、「対決! レンタル彼氏」では、レンタル彼氏と騙し合いの勝負を行う。「誰かになりきってみたい」という願望のために知人のUさんと結託し、レンタル彼氏を利用して、Uさんと朝井さんが姉弟としてその彼氏と会うというものである。

「地元にいる両親が、私がまだ独身であることにイライラしていて……東京にいる弟に彼氏を見せて、両親を安心させたいっていう設定です。これなら朝井さんは私の弟になりきるという快感を得られます」
快感を得られる未来を断言された私は少々戸惑ったが、Uさんのやる気は留まるところをしらなかった。それに、確かにそのやり方ならば、自分のなりきり能力を思う存分試すことができる。

『風と共にゆとりぬ』「対決! レンタル彼氏」p.53~54

二人のなりきり能力、臨機応変な対応、レンタル彼氏との激闘は目を見張るものがある……

何の話……?

序盤で「公式にふざけられるチャンスを常に嗅ぎまわっている」(p.34)とあり、「いったいどういうことなんだ?」と思っていたが、読んでいくうちに非常に納得してくる。スゴイ、この人、ふざけることに真剣なんだ……謎の感心とリスペクト。

そして何より、朝井さんのまわりに同志が多すぎる。なぜみんな協力的なんだ。

根源に潜む「ももこメンタル」

終始面白く読んだエッセイであったが、その根源に気付いたとき、なるほどと思った。それは「会社員ダイアリー」内で綴られていた「ももこメンタル」のことである。

朝井さんはさくらももこさんのエッセイ愛読しており、それらに大きく影響を受けているようだった。

私はとにかく子どものころからさくらももこさんのエッセイ集が大好きで、いつか小説家になるという夢が叶ったら自分も彼女のような“少し長め、かつ、メッセージ性皆無のくだらないエピソードばかりで編まれたエッセイ集”を出すんだっ、と鼻息を荒くしていた。

『風と共にゆとりぬ』「会社員ダイアリー」p.194~195

そして会社の同期に対して、これまたおふざけ満載の盛大ないたずらを仕掛ける際「私は今こそ、ももこメンタルを取り戻すべきなのではないか」(p.198)と意気込み、さくらももこさんが知人に仕掛けたいたずらのパロディを実行しようとする。

これを読んでハッとした。なぜなら私も、子どもの頃からさくらももこさんのエッセイを読みに読みまくってきたからである。

気づいてしまった、本書にはあちこちにこの「ももこメンタル」が散りばめられている。そして私はそのメンタルを無意識に感じ取り、欲し、笑い転げていたのではないか。

最近の私、ももこメンタル全然足りてない。もっとさくらももこさんのように、いや、朝井さんのようにももこメンタルを持ってふざけて生きていくべきだ。もっと、ふざけよう。たぶん朝井さんはそんなつもりで書いていないだろうが、私は何故か鼓舞されたのだった。

ここまでさんざん「おふざけ」についての感想を書いているが、ふいに作家としての姿勢や小説にまつわる真面目な話も飛び出すので油断ならない。笑いも真剣も両方詰まった素敵なエッセイでした。

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食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。