『ラオスにいったい何があるというんですか?』村上春樹。異国の意外な文化を知り、思いを馳せる

ラオス……聞いたことはあっても、行ったことはないし、知っていることもほぼない。私の人生では残念ながら、なかなか馴染みのなかった国であるが、村上春樹さんのエッセイ『ラオスにいったい何があるというんですか?』で初めてその魅力を知ることとなった。

片桐はいりさんの『グアテマラの弟』といい、旅のエッセイはスゴイ。自分が行ったことのない国を、身近に感じさせてくれるのだから。

同書は、村上さんが世界のあちこちをまわった記録。タイトルのラオスを含め、アメリカ、アイスランド、フィンランド、ギリシャなど、実に多様な国でのエピソードが綴られている。知っている国でも「そんな文化があるのか」と新鮮に驚いたし、行ってみたい場所がたくさん増えた。

読書に熱心なアイスランド

本書の中で一番好きだったのは、アイスランドの滞在記である。村上作品がアイスランドにて翻訳出版されることとなり、そのイベント等のために現地へ赴き、滞在を楽しんだようだ。

村上さんの作品は世界中の多様な国で翻訳出版されている。それを知ってはいても、本書を読むまでアイスランドで出版されていることは知らなかった。

アイスランドでは、日本のように国民だけが話す「アイスランド語」が使われている。人口は30万人と少なく、つまり、かなり限られた人のための翻訳と言える。しかも、翻訳されたのは私の大好きな『スプートニクの恋人』

書かれていなかったが、調べてみるとその前は『国境の南、太陽の西』が翻訳されているらしかった。『ノルウェイの森』など、海外でも人気の作品はほかにも結構あると思うのだが、どういう経緯でこの二作が選ばれたんだろう……よくわからないけれど、並々ならぬこだわりを感じるラインナップである。

そんな中、村上さんがアイスランドで一番驚いたことは「人々がとても熱心に本を読んでいること」(p.29)らしい。国民にとって読書はかなり価値のあることであり、「家にどれだけきちんとした本棚があるかで、その人の価値が測られるという話も聞いた」というから、よほどなのだろう。だから選ばれる翻訳作品も、少しマニアックなのだろうか?

日本で本棚にこだわるのは読書好きのみで、大きな本棚がある家は意外と少ないように思う。ちなみに私は自分の本棚も好きだし、人の本棚を見せてもらうのも好きだから、アイスランドの皆さんとは気が合いそうだ。冬が長いのは、苦手だけれど……

また、本へのこだわりが強い国民性ゆえに、アイスランド文学も盛んとあったが、残念ながら私は読んだことがなく、悲しい。ノーベル文学賞を受賞したというハルドール・ラクスネス氏の本を探してみると、随分前に一冊、日本語訳が出ているらしいので読んでみたい。

そのほか、「アイスランドの羊にはしっぽがない」とか、意外にも「森がまったくといっていいくらい存在しない」(暖房用の薪にたくさん使われているから)とか「全土で温泉が出る」とか、意外なアイスランド豆知識がいっぱい詰まっていて面白かった。全然知らない国だったのに、今や誰かにうんちくを語りたくなってしまうほど、勝手に親しみを感じている私である。

巡り巡って日本、そしてくまモン

アイスランドのほかにも、アメリカのオレゴン州・メイン州両方にある「ポートランド」という都市の話(共通してレストランの質が高いらしい)、ワインを買い込むために通ったイタリア・トスカーナの話など、個人的に好きなエピソードはたくさんあった。

ただ、その中でも印象的だったのは、日本・熊本の話である。正直、私としては「村上さんが日本に滞在するなんてこと、あるんだ」という驚きがものすごくあり、初めて読んだとき無駄に混乱してしまった……

本書によれば、知人を訪ねて熊本にやってきたそうで、さまざまな場所を訪れ、電車に乗ったり旅館に泊まったりして、滞在を楽しんでいる様子が綴られている。

それも確かに興味深かったのであるが、何より最後の「熊本を訪れたからには、やはりくまモンにひとこと触れないわけにはいかないだろう」(p.240)に笑ってしまった。村上さん滞在時はおそらくくまモンの人気絶頂期で、「熊本県ぜんたいが『くまモン化』しているといってもまったく過言ではない」ほどにあちこちにいたようである。一時期本当にすごかったもんなあ……

くまモン、今や殿堂入りのような地方ゆるキャラ。とはいえ、もう熊本をずいぶんと飛び出してどこにでもいるから、熊本のキャラクターであることを忘れそうになる。熊本と全然関係のない、うちの地元のイベントにもいました、くまモン。私は地元のゆるキャラを応援しているので複雑な気持ちだったけれど、地域活性化に貢献してくれてありがとな! と密かに賛辞を送っておくなどした記憶。

くまモンも、まさか村上春樹のエッセイに自分の名前が載るなんて思わなかっただろうな……ゆるキャラビジネスの凄まじさを、妙に感じたのであった。

振り返ってみると、かなり情報量の多い紀行文集であった。今のところ予定はないが、同じ地域に滞在するようなことがあれば、行った場所など、参考にしたい!

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。