『生きるコント』大宮エリー。抱腹絶倒のエピソードで一気読み

『生きるコント』、タイトルが秀逸である。著者の大宮エリーさんのまわりでは、つねに面白おかしいことが起きているらしい。同書で語られるエピソードの数々はとにかく「そんなことある!?」の連続で、「ふふっ」「ははっ」と声に出して笑わないと読み進められない。

一人けらけら笑いながら読んでいる私はさぞ気持ち悪かっただろうけれど、別にいい。だって面白かったから!!

独特の視点と価値観に揺さぶられる

面白おかしいことがつねに起きている。それ自体は間違いではないのだが、その要因の一つは間違いなく、エリーさんの独特の視点や価値観にあるはずだ。

例えば、大学生の頃に突如リオに行った話。リオのカーニバルの時期と薬剤師国家試験の日程がかぶっていると知り、「リオのカーニバルに行くから国家試験は受けられませんって言ってサボれるじゃん」と思いつきで薬剤師国家試験をサボって本当にリオに行く。

「そんな理由で?」と思う人もいるだろうが、そんな理由で海外に行ける人は強いと私は思った。そのメンタル、羨ましい。笑いながらもつい「いいなあ」と漏らしてしまった。いいなあ。

リオでの珍道中はご本人は大変であろうが、これまた笑ってしまうへんてこ事件が起き続ける。エリーさんの文章力も手伝って愉快爽快なエピソードが続く。一気に読み進めてしまった。まさに“生きるコント”である。

あるいはロスに滞在中、「ロスの人は、大阪の人に似ているかもしれないと思った」というエピソードも好き。映画のビデオを大量購入した際、店員の女性がレジを打つたびにその映画一本一本の感想を述べ始めたという。長蛇の列ができていたのでほかの客から野次が飛んだが、彼女は最後まで感想を言い切ったそうで、このマイペースな感じが関西人っぽいと評していた。

関西圏出身の私としては、なんとなくわかる感覚である。

その昔、東京の友だちが地元に遊びに来てくれたことがあった。楽しく買い物をしていた際、ちょっとした拍子に全然知らない人と話すことになり、冗談を言い合って会話をしていたら「え、知らない人だよね?」と驚かれたことがある。知らない人だけど、マイペースに話し込んでしまう感じが、地元っぽい。確かにこんなこと、東京じゃやったことがないなと妙に納得した。

怖さと珍妙さが入り混じるおかんエピソード

面白い、なんなら愉快すぎて「怖い」と思ってしまったのが“おかん”にまつわるエピソード。別に私の母も普通だとは思ってないが、エリーさんの“おかん”は異次元の個性がある。

犬を飼いたいと願うエリーさんに対し、おかんは「あんたには育てられない」とさんざん忠告してきた。ところがあまりに飼いたいというので、ついに「そんなにあんた、犬が飼いたいんやったら、おかんが、犬になったるわ」と言い出したという。文字を一文字一文字丁寧に読んでもまったくわからない。おかんが、犬になる……?

おかんは突然、わたしの前で赤ん坊のようにハイハイをし、ワン、と言った。こたつのまわりをワンワン言いながら走りはじめた。(中略)わたしは、なんだか泣きたくなりながらも、ムツゴロウの動物王国を思い出して、おかん犬に抱きついた。

『生きるコント』p.22

おかんエピソードはどれも度肝を抜かれる。……が、おとんが十歳サバを読んでいた話も度肝を抜かれた。親が子どもに嘘の年齢を教えることがあるなんて思いもしなかった。なんで……? なんでそんなことが、家庭で起こるの……?

笑えるけど、不思議で怖い。そしてなぜか愛おしくて感情が混乱する。でもやっぱり、面白い。めちゃくちゃになった気持ちを抱えながら、本を閉じた。またどこかのタイミングで、再読しよう。

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食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。