大人の多様な食を再発見。「大人ごはん」vol.3から学ぶ、それぞれの個性が宿る食事、縁食

「大人ごはん」は「人から見ればありふれた、なんでもない日常を、自分ごととして再発見すること」を目指した雑誌。どんな人にも欠かせない「食」をコンセプトとし、さまざまな人物の食生活をインタビューやコラム、座談会形式で掲載している。

どのページも個性に彩られているだけでなく、新たな食に関する発見も多くあった。

誰かと緩やかに集う「縁食」

巻頭の連載リレー「縁側のタバコ」では、縁側でのコミュニケーションについて記載されている。

かつて、縁側は家の中と外をつなぐ空間であり、家族はもちろん親せきや友人、近所の人などが集っては離れていく「オフィシャルでもプライベートでもない」場所だった。

お茶を飲んだり、おやつを食べたり、話に興じたり、昼寝をしたり……人によって過ごし方はさまざまであるが、確かに不思議な場所である。そして、この縁側に由来し、「縁食」という言葉が生まれたという。

孤食のように孤独ではなく、共食のように共同体の意識が強くない食の形態を、わたしは「縁食」と呼んでいる。とくに、近年、子どもの貧困が社会問題化して、日本じゅうで広がりを見せる「子ども食堂」のようなものをイメージするとわかりやすいだろう。誰もが入りやすく、かといって強制もない。食卓の前では、世代も、性別も、貧富も、国籍も問われない。

「大人ごはん」vol.3 リレー連載 「誰と食べるか?それが問題だvol.3 縁側のタバコ」 藤原辰史

私は子ども食堂の利用はないが、深く共感できるものがあった。例えば、私が今住んでいる家の近辺では、ゆるいご近所付き合いがある。ご近所友達とはしょっちゅう会うわけではないものの、その日の気分で連絡して、近所の店で落ち合って話す。

店によってはスタッフさんとも馴染みがあって、食事を通してゆるく繋がっている。これももしかして、縁食のひとつなのではないだろうかと思ったのだ。

確かに、コミュニティにしっかり所属するのは体力がいる。かといって、孤食や身内のみとの食事ばかりがいいというわけでもない。そのどちらでもなく、流動的に誰かと食を共にすることは、心を穏やかに、豊かにしてくれるように感じる。そう思うと、私にとって縁食は重要な位置づけといえそうだ。

一人の家飲みをより楽しむために

ツレヅレハナコさんの「一人で飲むのはいいことだらけ!」では、一人飲みの魅力と楽しむためのポイントが紹介されていて参考になった。

一人飲みの魅力は何より、なんでも自分のペースでできることにある。

「家だったら洋風のおつまみと和風のおつまみとか、全く脈絡がなくても良いし、何より人としゃべらなくていい。人としゃべりたい夜もあれば、誰ともしゃべりたくない夜もあるじゃないですか」と語る部分には、首がもげるほど頷いた。

いくつか紹介されているアイデアの中でやってみたいのは、台所での立ち飲み。

アヒージョはずっとグツグツしていて欲しいじゃないですか。じゃあ、コンロにかけながら立って飲んだらいいんじゃないかと思い立って、飲み始めたのが最初です。それでここで焼肉もしてみようと思って、立ち飲みしながら野菜を肉で巻いたりして。台所だとハムエッグを焼くだけでも楽しいつまみになる

「大人ごはん」vol.3 「一人で飲むのはいいことだらけ!」ツレヅレハナコ

私は友人と飲みに行くことも好きだが、一人で動画を観たり本を読んだりしながら飲むのも好きだ。

一人のときは好きなおつまみとお酒を揃えるが、統一感はまるでない。ハム系ばっかりとか、ひたすら同じプロセスチーズとか、人と食べる時にこんなことはしないだろうというずさんな(でも愛すべき)おつまみを用意することもある。

大人になるにつれて一人で飲む機会も増えたが、楽しみ方はまだまだ無限大。近々台所飲みを試してみたい。

何気ない食事にも個性が宿る

俳優の山田真歩さんをゲストに迎えた座談会「料理と言葉、そして演じること」では、山田さんが役作りにおいて「その人は何を食べて生活しているのか」を想像しながら料理を作るとおっしゃっていた。

読み始めたときは、「料理で役作り!?」と驚いたのだが、読むにつれて納得するとともに、自分の生活についても振り返る良い機会となった。

例えばこの間、戦後の残留日本兵の役を演じる友人と話したんです。痩せるために野菜の鍋ばっかり食べていると言うから、「それだとベジタリアンの痩せ方になって、生気がなくなる。ナッツとか生肉とか、ジャングルで採れそうなものを探して食べたら、当時の体験を想像できるし、ギラギラした感じも出るんじゃないの」と言いました。

「大人ごはん」vol.3 「料理と言葉、そして演じること」

普段何気なく食べているものにも、その人の個性が宿る。もちろんすべてが体や生活に影響するわけではないだろうけれど、私は美味しいものを食べると体も心も満たされた気持ちになるし、それが活力になることも多い。

だとすればやはり、食は私を形作るうえで大きな影響を与える存在になっているのだろうな。年齢を重ねる中で、意識しておきたいところだ。

同誌に掲載されているそれぞれの「大人ごはん」は、その人にとっては何ら特別でない、日常の一部ばかり。しかしそれこそがまさに、私を含む、ほかの人の食を豊かにするアイデアのもとになったり、食の多様性を再発見するきっかけになったりしている。大人のごはんはやっぱり、自由で面白い。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。