「好き」を突き詰めて仕事にする苦労と喜び。『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』いがらしろみ

『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』は、お菓子研究家・いがらしろみさんがジャムとお菓子の店『romi-unie confiture』を始めるまでのキャリアと心境を丁寧に綴った一冊。

「ジャムの専門店」はニッチであるからこそ、もともと好きで突き進んできたのかな、と考えたが、本書で知る紆余曲折に驚いたり、共感したり、リスペクトしたり……好きなことをとことん突き詰めて仕事にする過程は、苦労と喜びの連続なのかもしれない。

そして必要なのは、好奇心と行動力。これから何か新しいことを始める人にとっては、勇気を貰える一冊となっているように感じた。

ジャム屋にたどり着くまでの行動力

私が関心を持ったのは、どのような考え方を経て「ジャム専門店」というニッチな店を開くに至ったのか、というところであった。甘いものが好きであれば、一般的な菓子店やケーキ屋といった選択肢も考えられるからだ。

本書によれば、いがらしさんも一度はフランス菓子の名店に就職し、パティシエ見習いになっている。しかし、パティシエの仕事はあまりに激務。早朝から夜まで働くほか、大量の小麦粉やバターを運ぶ力仕事も日常茶飯事だった。

そんな日々を過ごすうちに、これでいいのかと思い始めたという。

私は、仕事は一生懸命したいけれど、仕事のせいでごく当たり前の人間的な生活ができない人生は嫌だ、という思いがありました。このままパティシエ見習いを続けるのは私の目指しているところと違うのではないか、という疑問にさいなまれはじめました。

『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』いがらしろみ

ここから、「お菓子づくりを仕事にしつつ、自分らしく働くにはどうすればよいのか?」と彼女の奮闘が始まる。フランスに赴いてお菓子を食べ歩いたり、料理学校へ留学したり、フランスの菓子店で働いたり……その行動力には驚かされる。そしてこれらの行動が、ジャム作りへの道を開いた。

回り道をしているように感じるかもしれないが、読み終えた私としては、そうは思えなかった。自分がやってみたいと思ったことを全て試した結果の、ジャム屋なのだ。

私も自分のやりたいことを片っ端からやってしまうタイプなので、すごく共感があった。私の場合、そうしなければ自分が納得できないし、本当にやりたいことや好きなことに出合えない。ただし、出合えた時には「これだったんだ!」と確信が生まれるのである。

自分なりの基準で「選び取る」ことが重要

本書ではジャム屋を開くまでの経緯だけでなく、いがらしさんの仕事に対する考え方も知ることが出来る。

印象的だったのは、どんな仕事であっても「自分はなぜそれをやりたいのか」をしっかり考える必要があるという話。

「これは自分らしくない」「これは自分に合う」が私の基準なのですが、その理由を説明するのは難しいですね。ひとことでいえば感覚でしょうか。それは一定の基準があるわけではなく、そのときそのときで選び取るものが違っているような気がします。

『お菓子の日々、ジャム屋の仕事』いがらしろみ

一つひとつの仕事に対して真摯に向き合い、これが本当に自分が好きなことなのか、自分に合っていることなのかを丁寧に問いかけてきたからこそ、今の道があるのだろう。それはジャムや開業前後の話からも十分に伺えた。

日々の仕事や暮らしに追われていると、どうしてもそこまで考えられないこともある。ただ、少しでも考えたり振り返ったりしてみると、確かに自分に必要なこと、あるいは必要でないのになぜか頑張ってしまっていることが見えてくるように思う。

それらを見直して、改めて自分に合ったものを選び取っていく作業は、仕事においても、暮らしにおいても重要ではないだろうか。

私は今、自分らしく日々を送れているだろうか、本当に好きな仕事や暮らしを選び取れているだろうか。いがらしさんのように定期的に考えて、心地よく生きていきたい。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。