『親愛なるA嬢へのミステリー』。事件が起きる、本当の理由は……

小説に目がない綾乃はあるとき、母親に親戚の啓千の世話を命じられる。右手が不自由になり小説家を辞めてしまった啓千(たかゆき)は、現在警察を手伝って事件を解決する素人探偵。彼の家を訪ねると無数の小説があり、綾乃はたちまち部屋を気に入って、啓千との日々を過ごすようになる。『親愛なるA嬢へのミステリー』

どんなミステリーや関係性が展開されるのかなあと読んでいたら、物語は驚くべき方向へと進んでいった。

事件が先か、探偵が先か

二人はともに過ごす中で、さまざまな小説の話をする。あるとき、綾乃が金田一耕助の最終巻後の様子を想像し、「金田一はアメリカに行ってベストセラー作家になって もう事件には遭遇しないんだ…」と話すと、啓千は「さて どうかな」とつぶやく。

「もしかしてすべての事件は その探偵のせいで起こっているのかもしれないよ」

これを聞いた時、実は私もなんとなく考えていたことだったのでハッとした。世にはありとあらゆる名探偵がいるが、彼らはいつも事件に遭遇する。驚くべき確率で何かが起き、解決を迫られる。冗談交じりに言ったことがあるのだ、「探偵が事件を引き起こしてたりしてね」。

そして、綾乃は、啓千の小説がさまざまな事件を引き起こしてしまっていることを知る。

啓千は彼の書いた小説が引き起こした事件を、彼自身の手で解決しなければならないことがある。事件を目の当たりにしたファンは「彼になら逮捕されてもいい」、犯人は「先生の輝かしい経歴の一部になれて幸せ」という。

しかし綾乃は、「自分がきっかけになってしまった事件を解決することに 誇らしさなんてあるわけない」といい、彼の悲しみを掬いとる存在となっている。

啓千の小説は人々を狂わせる。狂信的に彼を追い求める人、勝手に妄想して恨む人、初版や未発表の原稿を力づくで欲しがる人……彼の作品は彼の手の及ばないところでとんでもない影響力を生む。その力に左右されず、啓千自身を理解したいと思う綾乃の存在は、尊い。

「怖いだろう?」「怖くないよ 啓千さんなら怖くない」と話す二人は、これからいったいどんな関係性を結んでいくのだろう。そして、物語はどう進んでいくのだろう。一話完結で読みやすいこともあるが、何より彼らに幸せになってほしくて、ページをめくってしまうのであった。

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mae
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。