『3月のライオン』はプロ棋士の高校生・零くんが「自分のために自分と向き合い続ける物語」だと、以前に書いた。
ただ、自分と向き合い続けることは、自分だけでは難しい。誰かに支えられたり、影響を受けたりして初めてできるものなのかもしれないと思う。そして向き合い続ける零くんもまた、知らず知らずのうちに誰かに影響を与え、誰かを支えていることを、作品の節々で感じる。
誰かの頑張りは、誰かの支えになるということ
大晦日に風邪をひいてしまった零くんは、心配して駆けつけてくれた川本家三姉妹にお世話になることに。年末に看病してもらったことが申し訳なく、長女・あかりさんにお礼とお詫びを言った際、彼女が「私が来てほしかったの」とこぼしたシーンが好きだ。
たすかったのは私なのよ
『3月のライオン』③
あなたがいてくれなかったら 私 きっと今ここでひとりっきりで
これ片付けながら 多分 泣いちゃってたわ
この気持ちはよくわかる。頼られたことで意外と自分が救われることは、あるのだ。
温かく明るい川本家にも、いつも優しく気丈に振る舞うあかりさんにも、寂しさや辛さはある。一人で抱えきれない夜に零くんが頼ってくれたことは、彼女にとっても大きな支えになったということなのだろう。
あるいは、同じプロ棋士である二海堂くんが、人知れず零くんに救われていたことを明かすシーンもじんわり胸にくる。
二海堂くんは子どもの頃から病弱で、病室で将棋とばかり向き合ってきた。それゆえに、いつのまにかどんどん強くなり、弱い相手に「努力を放棄した卑怯者」とみなし、腹を立ててしまうようになる。
そんなときに自分よりももっと強い零くんが現れ、「オレより強いヤツがいる オレより努力した人間がいる」と知り、「オレは独りぼっちじゃないんだ」って思えたという。
きっと零くんは、自分が彼らを助けたという意識はない。でも、彼の不器用ながらも懸命に向き合い続ける姿が、まわりの人たちをいつのまにか助けている。
私も、誰かの頑張っている姿を見て勇気づけられることはたくさんある。零くんのがむしゃらな姿に、私だって「自分も頑張ろう」と奮い立たせてもらっている。
そう思うと、どんな人も誰かの支えになっているのではないか。それは、とても尊いことだと感じた。
自分が頼らないと、相手も頼れない
3巻は誰かに頼ること・頼られることの大切さ、かけがえのなさが散りばめられているように思う。そんな中でもっとも印象的だったのは、零くんの高校の教師・林田先生が零くんに放った言葉だった。
一人じゃどうにもならなくなったら 誰かに頼れ
『3月のライオン』③
――でないと実は誰も お前にも頼れないんだ
何かと抱え込みがちな零くんを心配し、力強く激励する姿にはぐっとくる。そして同時に、なかなか人を頼れない自分に言われているような気分にもなって、「そうだよなあ」と頷いてしまった。
私たちは意識的にしろ、無意識的にしろ、誰かに頼ったり頼られたりしながら生きている。そのことを、心にしっかりと留めておきたい。
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