「大丈夫」なんて言わなくていいセーフティネットが、私たちには必要だ! 『地獄のガールフレンド』①

『地獄のガールフレンド』は、20代~30代の年齢も属性もバラバラな女三人がシェアハウスをする物語。

シングルマザーの加南さんは、「お母さん」と呼ばれることにしんどさを感じている。子育てをしているお母さんだから、何か自分で選択しようとすると「ワガママ」「お母さんの都合」と言われ、疲弊している。

あるいは悠里さんは、静かに、誰にも迷惑をかけずに生きてきたけれど、他人の心ない言葉にモヤモヤしたり、ふいのトラブルにも一人で生きているゆえに「大丈夫です」というしかない状況にどうしようもないイライラを募らせている。そして奈央さんは自分の好きに生きてきているけれど、失恋し、大嫌いな家事から逃れられない生活に嫌気がさしている。

そんな三人がひょんなことから同居を始め、日々のモヤモヤや楽しかったことを語り合い、ときに支え合い、彼女たちなりの関係性を築いていく。友情なのかはわからない。しかし彼女たちにとってこの家は、セーフティネットのような存在だと思う。

不満も楽しいことも、共有できるセーフティネット

彼女たちは生活ぶりがまったく異なる。悠里さんは会社勤めで、毎日規則正しい生活を送っている。一方加南さんはフリーランスのイラストレーターで自宅で作業を行っていて、奈央さんは自分で店を持つアパレルデザイナー。

私が好きだったのは、三人の働き方と暮らし方を語り合うシーン。加南さんは、会社勤めの悠里さんに「加南さんみたく責任もって仕事するってすごい大変なことだと思う」と言われ、ちょっとした罪悪感を抱く。なぜなら自分では「全然大変じゃない」と思っているからだ。そして「自分の人生が楽しいと人に言いづらいのはなんでだ」と考える。

実は私も、フリーランスゆえに言われた経験がある。ごめんなさい、大変なことはあるけど、私の人生結構楽しいです、と誰かに言うのはなかなかに難しい。「あーうん、まあね~」と適当にごまかした記憶がよみがえる……

そんな中、「お互い選んだ道が違いすぎるから 私たち女は誰も彼も大変てことにしてなきゃいられない」という一文に、なるほど、と思った。確かに、女性はそれぞれあまりに暮らしぶりが違いすぎて、そういうことにしないとうまく話せないということはある。働き方はもちろん、既婚・未婚、子どものあり・なしでも、女性の生活はかなり異なってくるから。

これらの会話から、加南さんが「ゴメン ときどき ていうかかなりテレビとか観てるの…昼間 そんなに大変じゃないの 日々…」と告白するシーンはちょっとおかしみがありつつ、愛おしい。そこから三人は、人には言っていないけれど、実は楽している部分や大変じゃない部分の話をし合っていく。

あまりに違うから、すべてをわかり合うことは難しいかもしれない。でも、「あー、そっちはそんな感じなんだ」と少し理解することはできる。それだけでも十分に救われることがあるし、「大丈夫」とか「大変だよ」とか言わなくても、普通に自分のことを話せる場所があるって、すごく大事なことなのではと、この回を読みながら思った。

「女」であることの楽しさと面倒くささ

私は自分が女性であることを、割合好んで生きている。女性として生きていくことは、私にとって楽しいことではある。あるが、やっぱり、面倒なこともあったりする。

最も共感したのは、悠里さんの「若い女扱いはもう疲れた」という話だ。これは少し前まで、本当に自分が感じていたことだった。「若い女性」というと、世間では何となく「得」というか、いい感じに評価されてる雰囲気だが、本書で彼女が「若い女って過大評価か過小評価のどっちかしかされなくない!?」と叫んでいるシーンに心底頷いた。

私も30代に入って、少しずつ「若い女性」のくくりから抜け出せるようになり(とはいえ、まだ若い女扱いされることも全然あるけれど……)、仕事や生活がかなり楽になった印象。「若い女」以外の部分で評価してもらえるのって、なんてラクなんだ、と思った。

その一方で、あらためて「女性って楽しいなあ」と思わせてくれるマンガでもある。女友達を必要としていなかったはずの奈央さんが、男の人に暴言を吐かれた際、「すごく喋りたい 盛りに盛って今日のできごとを全部」と意気込んで、二人に今日の出来事を話す姿は生き生きしていて楽しそう。「私はもはやドブスなただのオバサンだけど 女友達のいるオバサンなら 少しはマシでしょう?」という奈央さん(※ドブスもオバサンも、男性に言われてしまった言葉)が、めちゃくちゃかっこよくて痺れた。

彼女たちの関係は「友情」というほど熱いものではないかもしれない。でも、ゆるやかに、自分たちのできる範囲で助け合ったり、支え合ったりしている。そしてそれが、すごく、すごく大切で尊いものだとしみじみ感じるのであった。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。