知られざる青果市場・仲卸業者の苦悩とやりがい。『八百森(やおもり)のエリー』①

マンガは凄い。今までまったく知る機会のなかった業界のことだって、わかりやすく教えてくれる。

仔鹿リオさんの『八百森のエリー』は、なんと青果市場の仲卸業者を主役にした物語。農家、あるいは野菜等の販売を行っている人々の話はあっても、その間に立つ仲卸業者の話なんて、かつてあっただろうか?(いや、ない!)

ふだん絶対に入ることのできない裏の裏を学べて、最高に面白いお仕事マンガでした。

仲卸業者の苦悩とやりがいを知る

主人公は農学部出身のエリー。大学院に進学して研究することを期待されるも、仲卸業者に就職する道を選ぶ。なぜなら、日本の素晴らしい農作物が「ちゃんと届くべきところに届いていない」から。そしてそれができるのが、「仲卸」だと考えているからだという。

私も、仲卸業者さんの存在はもちろん知っている。

飲食店一家育ちとしては、実家やアルバイト先で何度もお世話になってきたし、エリーの言うように農家(ここでは青果の話なので)と飲食店やスーパーなどの販売先を「繋ぐ」仕事であることも理解できる。

しかし、読みながら思ったのだ。お世話になってきたくせに、全然、仲卸業者さんのお仕事を知らないかも……

本書では仲卸業者の仕事ぶりが描かれるが、キラキラなやりがいを語る一面ももちろんありつつ、苦悩や葛藤もリアルに表現されている。また、夜中の2時から始まる仕事や細かいセリのやり方など、業界にいなければわからないことだらけ。

これをマンガで知れるとは、本当にありがたい。

また、一番印象的だったのは、数字の話である。本書ではあちこちで利益やコストの話が出る。具体的な数字で表され、そのたびに勉強になる反面、苦しくなってしまう。

「この山ひとつ50万円か……いくら儲かるんだ? これ……」
「スーパーで一袋200円くらいで……グラムで……うーんと…千円のっけて粗利で10万くらい?」
「でも場所代やら人件費 トラック代でほんの数万にしかなんないのか」

『八百森のエリー』①

私たちは安全で美味しい食材を、安く手に入れることができる。もちろん生活もあるから、ちょっとした高騰にも敏感だし、正直に言えば安価で手に入るのは助かる。

しかし、その中で誰かが損をしているのであれば、それは社会として決して良い状況とは言えないのではないか。農家さんも仲卸業者さんも販売者さんも、私たち消費者も、全員がWin-Winになるにはどうすればよいのだろう……

自分にできることは何かないのか、微力ながら考えるようになった。

シビアな現実、それでも仲卸が必要な理由

仲卸業者は中間業者。最近はDtoC(Direct to Consumer)なる言葉もあって、農家が直接お客さんに販売するケースも多いだろうし、何よりネットですべてが済む時代に突入している。

本書でもエリーと一緒に入社したのりたまくんが、「流通ってもうネットでOKじゃん 中間業者ってこれからいらなくなるんじゃんって思うんですけど」と素朴な疑問をぶつけるシーンがある。

実際のところ、仲卸業の仕事をよくわかっていなければ、多くの人が同じようなことを思うのではないか。私も全く思っていないと言えば、嘘になる。しかし、この答えも、本書にはしっかりと用意されている。

仲卸業ってこんな仕事ですよ、こんなところが大変で面白いですよ、と、それだけに終わらない。先述のように利益の話をしたり、現代ならではの業界の問題に踏み込んだりしているところも、本作の魅力だと感じた。

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襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。