『フルーツバスケット』愛蔵版②。世界で一番バカな旅人、母の記憶

『フルーツバスケット』愛蔵版2巻は、兎憑きの紅葉が特にフィーチャーされている。ドイツ人と日本人のハーフの男の子・紅葉は、明るく可愛らしく、ムードメーカー的存在だ。たくさんの人に愛され、幸せに育っているように見えるが、彼もまた十二支の呪いに囚われ、傷つきながら生きてきた。紅葉と彼の母親の回想は、何回読んでも泣いてしまう。紅葉に幸せになってほしいと、何度も願ってしまう。

世界で一番バカな旅人

紅葉はきゃぴきゃぴしていて、周りからは悩みがなさそうに思われているような子だ。ただ、彼の優しさや底知れない悲しみは、物語のあちこちで現れる。印象的であるのは、彼が学校の友達から聞いた、すぐに騙されちゃう「バカな旅人」の話をするシーン。

旅人は愚かで優しい人物であるあまり、出会う人に次々騙されて、服やお金をだまし取られてしまう。「これで助かります」と言われると涙をこぼして「お倖せに」という。

森の中を歩けば、今度は魔物たちにも騙される。今度はモノではすまず、旅人は自分の足や腕をどんどん差し出していってしまう。

やがて頭くらいしか残らなくなり、最後の魔物は目を奪った。そして贈り物として「バカ」と書いた紙を一枚渡す。すると旅人は「初めての贈りものだ」と言って喜び、もうない目から涙をこぼして泣く……

紅葉の友人たちはその話を聞いて笑う。しかし彼は、旅人に思いを馳せ、「なんて愛しいんだろう」と感じる。

誰かにとってはそれがバカでも ボクにとってはバカじゃないだけ
誰かにとってはだましがいのある人でも ボクはだまさないだけ
ボクは本当に喜ばせてあげたいと思うだけ

『フルーツバスケット』愛蔵版② 高屋奈月

実はバカな旅人の話は、物語のクライマックスでやがて、回収されていく。私も思う、旅人は愛おしい。私は決して騙したくないし、彼の優しさが消費されない世界であってほしいと強く願う。

十二支憑きの母親たち

異性に抱き着かれると動物に変身してしまう。ファンタジーで楽しそうな設定ではあるが(実際笑ってしまうシーンも多い)、それはかなりの生きづらさと苦しみを伴う。異性は肉親も含まれるため、きょうだいや親であったとしても、生まれてきた赤ちゃんを抱けない可能性があるのだ。紅葉は男の子であるゆえに、母親が抱くことはできない。

大好きな人と出会って 大好きな人と結婚して
大好きな人との間にできた子供を産んで
その子供を抱いたら 奇妙な動物の赤ちゃんになってしまうなんて
それって…「お母さん」にとって どれくらい絶望的なことなのかな

『フルーツバスケット』愛蔵版② 高屋奈月

紅葉曰く、十二支憑きの子どもを産んだ母親は、「不必要なほど過保護になるか
拒絶するかのどっちかが多い」
という。実際、登場する母親たちは子どもたちに関心を持たないか、家の中に閉じ込めたり、可哀想だと何かと心配したりしている。

紅葉の母親の場合は精神的に病んでしまい、紅葉を拒絶してしまった。そして彼は病んでいく母親を救うために、母親から自分の記憶がなくなることを許した(※草摩家には記憶隠蔽という秘伝の技術がある)。紅葉の父親が「紅葉にはとてもつらいと思うけど パパがその分いっぱいいっぱい愛してあげる」と彼を説得するシーンでいつも泣いてしまう。

苦しい過去がありながらも、「ボクはちゃんと思い出を背負って生きていきたい」と笑う紅葉は強い。その裏の儚さまで含めて、私は紅葉が大好きなのであった。

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