『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?』飯間浩明。街を練り歩き、言葉を捕まえ、吟味する

言葉の収集癖があるという話をしていて、ふと思い出した本がある。飯間浩明さんの『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?』。国語辞書の編纂をしている飯間さんが街を練り歩き、実際に使われている言葉たちを集め、辞書に載せるかどうかを検討する様子を紹介した一冊だ。

ここでは辞書に載せる言葉を見つけ出すことを「ワードハンティング」、実際に使用された言葉の事例を集めることを「用例採集」と呼んでいて、その手法がたっぷりと掲載されている。その様子が、言葉収集癖のある私からするとかなり面白い。

ちなみに飯間さんはアニメ化された『舟を編む』の辞書制作監修、ドラマ『持続可能な恋ですか?』で国語辞典関係の監修を担当されている(「じぞ恋」観たときも、この本を思い出した)。私はひっそりとファンで、「マツコの知らない世界」も拝見しました!

見つけようとしなければ見つからない言葉を求めて

辞書には冗談抜きで、たいていの言葉が載っている。辞書にもよるけれど、一般的によく使われる言葉はもちろん、流行り言葉、ネットスラングなども網羅されている印象。その解説の適切さ、キャッチーなワードと真面目な説明のギャップに笑ってしまったこともある。

余談だが、私は辞書が大好き。言葉が詰まりに詰まっているあの一冊に、愛おしさと尊敬の念を感じる。以前読んだ「BRUTUS」2019年1月15日号「危険な読書」の企画「国語辞典を読む」も面白かった……

しかし、辞書の言葉をどう集め、取捨選択しているかなどは、本書を読むまで考えたことがなかった。

思い返せば、普段の生活で何気なく目にしている看板、テレビやYouTubeから流れてくるセリフ、友人たちとの気兼ねないおしゃべりに至るまで、言葉は常に溢れ返っている。つまりは注意深く気を付けていないと、皆が調べたい言葉、辞書に載っていて当たり前の言葉を見つけるのは難しいということだ。

本書によれば、「1か月に400語前後のペース」で言葉を集めているという。辞書の改訂作業が本格化する時期には「1万数千語」が集まっているというのだから、ある意味、恐ろしい……だって、辞書ってあんなに言葉載ってるんですよ? それなのに、改訂作業でさらにこんなにもの数を検討しているなんて……

新聞・雑誌・書籍・テレビ……さまざまな媒体をくまなくチェックするだけでなく、街中の看板や張り紙、自動車の側面などにも目を向けるらしい。本書では、都内を24地点もまわった様子が掲載されていた。

言われてみればへんてこで、愉快な言葉たち

都内をまわって集めてきた言葉たちは、ふだんの生活なら見過ごしそうなものばかりでありながら、言われてみれば「いや、確かにちょっと変だな?」とか「いつからこうだったっけ?」とか、疑問に思うものだらけ。

本書は2013年発刊。従って歩き回って集めた言葉たちも、2013年当時のものということになる。

例えば印象的だったのは、「〇〇割」の話。「誰でも割」「のりかえ割」「家族割」など、「~割」のバリエーションは、2023年現在も無限に増え続けている。「~割」はつまり、何らかの割引を指す言葉であるけれど、本書によれば「少し前までは、何かの名詞に『割』をつけて『割引』の意味を表すことはありませんでした」とあり、驚く。まず、「学割」が例外的にあり、そこから「早割」などが生まれ、しだいに意味が広がっていったというのだ。

もう全然、違和感のない言葉である。「~割」と聞けば、醸し出されるお得感……もう何がついていても、だいたい受け入れられる。ここでも「スタート割」「ともだち割」などのいろんな「割」が紹介されていたが、多少へんてこな割引でも、「そういう割引か~」と納得してしまう自分がいる。

あるいは、方言だったもののいつのまにか共通語になり、やがて辞書に掲載されるようになった言葉の話も面白かった。

例えば「まるっと」は、もともと方言だったらしいが、今は全国的に使われるようになっている。私はやはり本書にも掲載されていたように、ドラマ『トリック』の「お前たちのやったことは、全部すべてまるっとお見通しだ!」が思い起こされる。自分の方言にはないから、てっきり標準語かと思ってたなあ……

私の場合、ここにもちらっと載っていたけれど、いつのまにか「しんどい」が共通語になっていた際に驚いた記憶がある。以前は関東の友達に通じなかったのに、今となってはふつうに使っている。しんどい!

ほかにも、愉快な用例採集がもりだくさんであった。特に、個人的に好きだったワードは、辞書に載るという観点ではないが、隅田川新聞に掲載されていた、とある児童による川にまつわる感想文。「このままだと川が~~!??!」という一文がすっごくかわいくて、ばっちり情景も伝わってきて、微笑ましくなってしまった。前後も含めて、ぜひ本書で読んでみてほしい。

感想文もそうだけれど、本当に言葉はあちこちにあって、それを捕まえて、吟味して、辞書に載せるという行為は本当に大変。でもとっても楽しそうで、やりがいに溢れているように見えた。

私は思いっきり趣味ではあるが、引き続き言葉集めを楽しむぞ~!

もっと「言葉を楽しむ本」の記事を読む

もっと「読書感想」の記事を読む

⇒読書感想の記事一覧はこちら

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA


ABOUT US
襟田 あいま
食べること・読むことがとにかく好き。食と本にまつわる雑感を日々記録しています。